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観光客でにぎわっても業績不振の京都・錦市場

日々の食材求める地元客離れ 土地の文化の存続を考える時期に来ている 

田中敏恵 文筆家

 「初めて訪れる場所では、まず市場と博物館をめぐる」とは文化人類学者の中沢新一の言葉である。市場というのは、その土地の恵みと暮らす人々の食文化をうかがい知ることができる。つまり、その場所を理解することに通じるわけだ。

  過日、京都でのこと。生麩の老舗『麩嘉』の旦那である小堀周一郎さんからこんな話を聞いた。「錦市場の店舗の業績が芳しくない。閉店も視野に入れて今後を考えている」と。

  錦市場といえば、ご存知京都の中心・錦小路通に店が連なる市場である。その歴史は約400年前、江戸時代の魚市場を発端とするという。昭和2年に京都中央卸売市場ができたことで、それまでの鮮魚市場から多様な食材が揃う形へと変化していったが、長きにわたって京都の人々の暮らしを支える台所である。

  しかし近年、この錦市場で昔から商いをする店舗たちの多くが『麩嘉』の店のように厳しい状況となっているのだという。

イカの串焼きを手に着物姿で記念撮影する外国人観光客=2017年7月11日、京都市中京区の錦市場イカの串焼きを手に着物姿で記念撮影する外国人観光客=2017年7月11日、京都市中京区の錦市場
  インバウンドを含め、観光客の増加が著しい京都。街の規模としては決して大きくないこの場所では、狭い道路に観光客が溢れているという光景をよく見かける。魅力もロケーションとしても抜群な錦市場も多分にもれず、連日多くの観光客がやってくるわけだ。本来は地元の人達が日常での食材調達をする場所であったが、観光地化が進む中かつての利用客離れが著しい。これが、店舗の業績不振を起因しているのである。

  これはもう錦市場の風物詩のようになっているが、四六時中ラッシュアワーの駅のような、ひしめき合う人たちの多くは観光客であり、観光客というのは(良い悪いは別にして)市場で食材を調達するのが目的というよりも、ブラブラとひやかしながらその雰囲気を楽しむものである。

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