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地獄から解放され満面の笑みで言い切った王者内村

「負けて本当に清々しい」 東京五輪へ楽しみな共闘時代の幕開け

増島みどり スポーツライター

体操・全日本個人総合選手権の決勝で跳馬の演技をする内村航平=2018年4月29日、東京体育館拡大体操・全日本個人総合選手権の決勝で跳馬の演技をする内村航平=2018年4月29日、東京体育館
 4月下旬に行われた体操の全日本個人総合選手権(東京体育館)には、5000人近い観客が詰めかけていた。五輪イヤーでもないのに異例ともいえるファンが集まったのは、目の前で歴史的な「世代交代」を見届けたいという強い期待感からだろう。

 昨年のモントリオールで行われた世界選手権跳馬の着地で足首を痛め、復帰にかける内村航平(29=リンガーハット)と、世界選手権で内村の棄権後大躍進を見せた白井健三(日体大)の2人がどんな演技で競い合うか、26日の公式練習から、メディアもファンも一騎打ちを盛り上げた。予想通り、予選トップは白井で、さらに内村はあん馬の落下が響いて5位に。

 誰もが白井が内村の全日本11連覇を阻止し、歴史を塗り替えると決めつけていた決勝、堂々の演技で優勝を果たしたのは順大の谷川翔だった。しかも内村の11連覇阻止と同時に、全日本史上最年少となる19歳2カ月での優勝と、2つの歴史を鮮やかに塗り替えて見せた。

 2017年、わずかな差で白井を退け10連覇の偉業を果たした際、内村は「勝って地獄」と、その優勝を表現している。

 「もう地獄ですよね。負けたほうがどんなに楽だったか」

 笑いながら選んだ「地獄」という言葉には、どこか凄みさえ漂い印象に残っていた。言葉の背景には、連勝を続ける難しさなどよりも、ライバルではなく、自分と戦い続けなくてはならない10年間の苦闘が滲んでいたのだろうか。そして今年、谷川、白井と大学生2人に敗れて3位だった内村に「地獄は終わったか」と聞くと、満面の笑みを浮かべて言った。

 「本当に清々しいですね。10年間、自分を超えるっていうのが一番難しい戦いだと思っていたんで。若手がきっちり勝ってくれて、これで本当に肩の荷が下りた」

 彼ほどのレベルのトップ選手になれば勝ち方の美学は当然持っている。一方で時代を築きながら突然訪れる敗戦に見せた姿と言葉にも、徹底した美学があったように見えた。 ・・・続きを読む
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筆者

増島みどり

増島みどり(ますじま・みどり) スポーツライター

1961年生まれ。学習院大卒。84年、日刊スポーツ新聞に入社、アマチュアスポーツ、プロ野球・巨人、サッカーなどを担当し、97年からフリー。88年のソウルを皮切りに夏季、冬季の五輪やサッカーW杯、各競技の世界選手権を現地で取材。98年W杯フランス大会に出場した代表選手のインタビューをまとめた『6月の軌跡』(ミズノスポーツライター賞)、中田英寿のドキュメント『In his Times』、近著の『ゆだねて束ねる――ザッケローニの仕事』など著書多数。

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