メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

「情熱大陸」が映した上野千鶴子

「愛」深き社会学者の横顔

樫村愛子 愛知大学教授(社会学)

上野千鶴子対談で語る上野千鶴子 1948年富山県生まれ。社会学者。東京大学名誉教授。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク理事長。2011年朝日賞受賞。著書に『近代家族の成立と終焉』『ナショナリズムとジェンダー』『生き延びるための思想』『おひとりさまの最期』『女ぎらい――ニッポンのミソジニー』など多数。

 社会学者で日本のフェミニズムの第一人者、上野千鶴子が、6月30日放送の「情熱大陸」(毎日放送制作/TBS系)に登場した(2019年7月7日までMBS動画イズムで見逃し配信中)。

 どちらかといえば社会を「斬る」側の学者、その中で最も大きな影響力を持つ上野が、社会と格闘するさまをテレビカメラがとらえる。それを見たいというのは、社会学者である私の欲望でもあった(これまで彼女は、こういった密着取材は断ってきたらしい)。ちなみに1998年にスタートしたこの人物ドキュメンタリー番組で学者を取り上げた例は少なく、社会学者は今回が初めてである。

テレビ番組の文脈を超えた

 放送後の反応は、女子を中心におおむね共感の声が多かった。特に、病人や高齢者のケアについて「家族のように……」が最上の褒め言葉とされる「家族の呪い」を、上野が批判したことへの共鳴が強かった。

 一方で、番組の内容は表面的過ぎて、上野千鶴子のいったい何を示せたのかという批判もあった。

 だが、さすがは上野。「テレビ番組とはこういうもの」という枠に収まらず、そうした文脈(予測可能性)を超えていたと、私は思う。

 番組は、若い時の家族写真を映しつつ、価値観を押しつけようとする父親との間に矛盾した愛憎を抱く「父の娘」だった上野と父との関係、その父の晩年の介護、また「(父に抑圧された)母の呪い」に触れていた。

・・・ログインして読む
(残り:約2621文字/本文:約3223文字)