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安倍政権とNHKの蜜月は民主主義を破壊しないか

内閣支持率が落ちない背景に、権力と一体化する政治報道

徳山喜雄 ジャーナリスト、立正大学教授(ジャーナリズム論、写真論)

籾井勝人・前NHK会長(左)と安倍首相=2014年3月12日

 「NHKと政権の距離」をめぐって批判が絶えない。経営委員会の委員長や委員の人事、さらに会長人事を政権の肝いりでおこない、6年半を超える第2次安倍晋三政権下、NHKへの影響力が増し、NHK側も忖度をつづけているように映る。その実例を本稿で縷々述べるが、社会に大きな影響力を持つ公共放送で、民主主義のインフラといえるNHKと安倍政権の蜜月。参院選を間近に控える日本を、どの方向へと導いていくのであろうか。

政治記者が政権スタッフのごとく目を光らせる

 NHKと政治権力との関わりについて昨今の動きを振り返りたい。

 たとえば、昨秋の翁長雄志・前沖縄県知事の県民葬で、菅義偉官房長官が首相の弔辞を代読したとき、参列者から「ウソつき」「帰れ」などの怒号が1分間以上にわたって響き渡った。このシーンを民放は放送したが、NHKは流さなかった。同じく昨秋の沖縄県知事選で、玉城デニー氏を「当選確実」とする速報を他メディアより1時間半遅れで伝えた。これまでのNHKの選挙報道では、考えられないことだ。

 安倍首相は1月6日放送のNHKの討論番組「日曜討論」に出演。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への基地移設をめぐり、埋め立て予定海域へのサンゴ移植はされていないのに、「サンゴは移している」と発言。NHKはこの内容の真偽を確かめないまま放送し、誤報となった。収録から放送まで丸1日以上あり、チェックする余裕があったが、首相の言葉を唯々諾々と流しただけだった。

 加計学園問題をめぐっては、前川喜平・前文部科学次官に最初にインタビューし、「総理のご意向だ」という文書があるとの証言を証拠とともに得たが、いまだに放映していない。その後、他メディアが報じることになった。森友学園問題では、特ダネを放った大阪放送局の司法記者の相澤冬樹氏が記者職を外され退社している。相澤氏は昨年12月、「安倍官邸vs.NHK」を出版。スクープの放送後、東京の報道局長が「なぜ出したんだ」と激怒したと記されている。

 「NHKと政権の距離」問題を語りだすと、枚挙にいとまがない。NHKの政治記者が、まるで安倍政権のスタッフのごとく放送内容に目を光らせているかのようだ。政権にかかわる報道をみるかぎり、「公共放送」なのか「国営放送」なのか、区別がつかないありさまだ。NHKは根本的に考え直さなければならないだろう。

編集権と人事権を一手に握る会長

百田尚樹氏
 このようなことが起こる背景には、NHKの予算は国会承認で、経営委員会の人事は衆参両院の同意のうえで首相が任命するという事情があり、政治家とりわけ政権中枢に弱い面がある。さらに会長が編集権と人事権を一手に握り、絶大な力を持っているが、その会長人事が政権の影響下で行われる。

 たとえば、第2次安倍政権の発足後、政権は2013年11月、安倍首相に近い作家の百田尚樹氏や埼玉大学名誉教授の長谷川三千子氏ら4人をNHKの経営委員会に送り込んだ。翌14年、会長に三井物産の副社長をしていた籾井勝人氏が就任。籾井氏は

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