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「原発県民投票」をあっさり葬り去った茨城県議会

8万6703人の直接請求への回答は「事実誤認や論理矛盾のオンパレード」だった

徳田太郎 いばらき原発県民投票の会共同代表

 6月23日の茨城県議会本会議で、「東海第二発電所の再稼働の賛否を問う県民投票条例」の制定を求める議案が、賛成5(日本共産党2、立憲民主党1、無所属2)、反対53(いばらき自民党41、県民フォーラム5、公明党4、無所属3)で否決された。

 それに先立つこと5日前、議席の7割超を占めるいばらき自民党の議員会長が「廃案になってよかった」と発言した。この発言の問題点は後に検証するが、さしあたりの関心は、多くの県民の思いとともに議会に届けられたこの条例案は、「廃案」という結論ありきで審議がなされていたのではないだろうか、という点である。

 だとすると、それはいつからなのか。時系列で検証してみたい。

周辺に住宅が広がる日本原子力発電の東海第二原発=2018年、茨城県東海村

必要数の1.78倍に及ぶ8万6703筆

 首都圏唯一の原発である東海第二原発は、1978年に営業運転を開始し、2011年の東日本大震災で被災して以降は稼働を停止している。

 しかし2018年、原子力規制委員会が20年の運転延長を認可した。つまり、再稼働すれば、運転開始から60年となる2038年までの運転が可能となるということである。

 再稼働には、周辺6市村と茨城県の同意が必要とされている。そこで、「県の判断には広く県民の意思を確認することが必要であり、そのための最適な手法は、県民同士が話し合い、その上で個々が選択を表すことができる〈県民投票〉の実現である」と、県民の有志からなる「いばらき原発県民投票の会」(以下「会」)が制定を求めたのが、冒頭の条例である。

 条例制定の直接請求には、都道府県の場合は2ヵ月以内に、有権者の50分の1以上の署名を集めることが必要となる。

 署名といってもweb署名ではない。一人ひとりが、請求代表者または代表者に委任を受けた「受任者」と呼ばれる人と対面で、住所・氏名・生年月日を自署し、捺印する必要もあるものだ。

 法定必要数は約4万8600筆。3555名の受任者は今年1月から「話そう 選ぼう いばらきの未来」という会のキャッチフレーズを繰り返しながら、冷たい風に吹かれながらの街頭署名、インターホンを押す指先もかじかむ戸別訪問などで、一筆一筆を積み重ねていった。

 そして、新型コロナウイルスの感染拡大という困難を乗り越え、会は4月21日に全44市町村での署名活動を終えた。5月25日の本請求時に添えられた署名数は、必要数の1.78倍に及ぶ8万6703筆となった。

 署名期間中には、街頭署名に中学生が「自分はまだ署名ができないから」と、祖父母の手を引いてやってきたこともあった。署名の数以上に、多くの県民の思いが込められた直接請求だったのである。

 条例制定の直接請求があった場合、知事は自らの意見を付して議会に諮ることになる。本条例案は、6月8日開会の令和2年第2回定例会で審議されることになった。

委員会審査は1日で終了、即日採決に

 実は、本請求に先立つ5月15日、議会事務局から会に対して県民投票条例案の審議方法に関する内示があった。そこで示されたのは、(1)条例案は防災環境産業委員会に付託されるが、総務企画委員会との連合審査会により審査されること、(2)連合審査会での審査は1日で終了し、即日採決すること、(3)参考人として、請求代表者、大学教授、資源エネルギー庁、原子力規制庁、基礎自治体の長の5組を招致すること、の3点を柱とするものであった。

 東日本大震災以降、原発に関して都道府県レベルでの住民投票を求める直接請求は、東京・静岡・新潟・宮城で行われているが、それらの先行事例に照らすと、ここで示された審議方法にはいくつかの問題がある。

 たとえば、東京・静岡・新潟では複数日程にわたって委員会審査が行われている。また、参考人を招致した静岡・宮城では、行政法や地方自治論の専門家が中心となっており、いずれも学識経験者である。

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