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継承か断絶か 箱根駅伝とファミマにみる「男だろ!」「お母さん食堂」社会の未来

消えつつある伝統的家族観をかきたてるファンタジー

井戸まさえ ジャーナリスト、元衆議院議員

 2021年、コロナ禍での新年は異例づくめだった。毎年、観客やファンで賑わうスポーツイベントも観戦自粛が求められ、箱根駅伝も「応援したいから、応援に行かない」「おうちで箱根駅伝」というハッシュタグも作られた。帰省の自粛でテレビ観戦者が増えたことが影響してか、テレビの平均世帯視聴率は、往路31.0%、復路33.7%、往復平均が32.3%と、いずれも歴代最高を更新した。また、下馬評を覆して創価大学の大健闘と、最終10区での駒沢大学の逆転Vの展開に、テレビ画面に釘付けになった人々も多かったのだろう。

 「男だろ!!」

 最終10区で3分20秒差。誰もが「逆転不可能」と思った差を縮め、奇跡の大逆転劇でレースはクライマックスを迎える。手に汗握る展開の中で、テレビから聞こえてきたのは、駒大・大八木弘明監督の檄である。選手はギアチェンジし、加速していくが、画面の先では「男だろ!」について別のデッドヒートが行われることとなる。

箱根駅伝10区、石川拓慎(右)に車から声をかける駒大・大八木弘明監督(中央)=2021年1月3日、東京都中央区  スポーツニッポン代表撮影

「男だろ!」特出し 大八木監督自身が違和感

 ジェンダー平等が叫ばれる昨今、職場で、学校で「男だろ!」と声がけしたら、セクハラ、パワハラと非難されることは必至である。大八木監督の檄も、女性を侮蔑したものではないとわかりながらも、聞こえのよいものではない。実際、SNSでは箱根駅伝ファンでもこの掛け声に違和感を持つとの発信をした人も少なくない。

 ちなみに大八木監督の「男だろ!」の檄は、今年はじめて口にされたものではない。厳しい指導で有名な大八木監督が、ここぞというところで選手に向かって投げかける「十八番」の言葉として以前から知られている。

 箱根駅伝での檄を含んだレース中の選手への「声がけ」は、以前はそれぞれの大学の監督車が選手の後ろで始終檄を飛ばすと言った形が取られていたが、交通事情や安全対策上のから、現在は運営管理車から各区間の「1キロ」「3キロ」「5キロ」「10キロ」「15キロ」「残り3キロ」「残り1キロ」時点、各1分間と決められるようになった。「余裕を持って入ったか? 大丈夫なら手を挙げろ」「5キロ14分○秒で入った」「いい動きだよ」――。テレビ局は監督の言葉を適宜拾いながら放送する。

 最初は冷静な監督たちも、ライバル校が追ってきたとなると、言葉が変わる。大八木監督は佳境に入ったときの自らの言葉の変化をこう記している。

 「ここからだ!」「そこで踏ん張らなくてどうする!」
 「頼むぞ!」「腕を振れ!」
 「男だろ!」

 「男だろ!」は、選手が後半になって苦しくなってくる頃、必死な様子が感じられ、思わず口について出る言葉なのだという。一方で、沿道からは、運営管理車に向かって「大八木、男だろ!」と逆にヤジを飛ばしてくる人や、「大八木監督、〝男だろー〟って、言ってください!」などと言ってくる駅伝ファンもいて、「苦笑するしかないが、それほど反響があるのは事実だ」との印象を語っている。

 あまりにも「男だろ!」の檄ばかりが一人歩きし、出版の際の企画書でも、仮タイトルが『男だろ』」になっていたことに大八木監督自身も驚いたという。この言葉以外にもさまざまな言葉で檄を飛ばしているのだから「『男だろ!』の言葉ばかりがクローズアップされるのは不本意なので、それは却下させていただいた」としているが、『駅伝・駒澤大はなぜ、あの声でスイッチが入るのか――「男だろ!」で人が動く理由』と、副題に入ることに対しては抵抗できなかったのだろう。

「全集中の呼吸」と同じ感覚での「男だろ!」

 「男だろ!」という檄を選手はどう受け止めているのだろうか。前著では、箱根駅伝で4年連続2区を走った駒沢大学OBの宇賀地強の言葉として、次のように紹介している。

 「大学2年の時にはじめて言われました。一番きついところで『男だろ!』と言われて、内心では〝それはそうですよ〟と思いました(笑)。けれども、その言葉でスイッチが入るし、もう一度頑張ろうと言う気持ちになります。監督としても必死の励ましの言葉なんだと思います。」

 どこかでそういうことで監督が気持ちの高ぶるのであれば、言わせてあげようという、学生たちの気遣いも見え隠れす

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