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ストリップ劇場が日本から消える日~風俗を差別し、日陰に追いやるべきなのか

人生で初めて、私もそこに行ってみた

たかまつなな 時事YouTuber

 人生で初めて、ストリップ劇場に行った。今まで「性が汚らわしい」と、なんで思っていたのか……。偏見まみれだったと猛省した。

 踊り子さんが、めっちゃくちゃかっこよかった。小道具や衣装、ダンス音楽にこだわり、普通に芸人として、劇場に立つ自分と重なった。綺麗だし、女性のお客さんが多いのも納得。しかし、今、ストリップ劇場は、全国的に相次いで潰れているという。一体なぜか。

ストリップ劇場に感謝状? 違和感だらけの空間

「ストリップ A級小倉」の看板=北九州市小倉北区「ストリップ A級小倉」の看板=北九州市小倉北区

 私が訪れたのは、九州で唯一のストリップ劇場「A級小倉劇場」だ。

 経営者の木村恵子さん(69)に、お話をお伺いすることができた。40年以上、ストリップ劇場を経営してきたが、コロナで経営は悪化した。売り上げは前年の半分以下に陥ったという。

 入り口から劇場まで続く階段を上りながら、さっそく驚いた。踊り子さんのポスターに混じり、感謝状がズラーと並べられていたのだ。

 なぜストリップ劇場にこんな立派な賞状があるんだろう。よく見ると、社会福祉協議会と書いてある。今まで、木村さんは稼ぎの一部を社会福祉協議会に寄付してきたから、寄付先から感謝状がたくさん送られてくるという。

 「社会をよくするためにやってきた。儲けのためだけにやっていないから。みんなの幸せのためですよ」。純粋な瞳だ。誇りをもって仕事にとりくんできたのだろう。「かっこいいですね」と私が言うと、「そんなの当たり前。置く場所がなくて処分したんだよ」と恥ずかしそうに話してくださった。

 たくさんあるように見えるが、これでも飾りきれないのか。木村さんの思いと、感謝されてきた歴史の厚みを感じた。

「A級小倉劇場」に掲げられていた、社会福祉協議会からの感謝状=北九州市小倉北区「A級小倉劇場」に掲げられていた、社会福祉協議会からの感謝状=北九州市小倉北区

「もう税金を納めたくない」 給付金の対象から外されて

 これだけ地元に貢献してきた木村さんは、「もう税金を納めたくない」と正直な気持ちを話してくださった。

 コロナで経済的打撃を受けた中小企業に最大200万円、個人事業者などには最大100万円を給付する持続化給付金は、なぜかその対象から性風俗業が除外された。政府は「国民の理解が得られにくい」と説明した。木村さんも、持続化給付金は貰えなかった。「差別してほしくない。税金をずっと払ってきたのになぜ? もう払いたくなくなる」と心中を吐露する。

 ⽊村さんは 、 ⾜腰が悪いこともあり、 経営からの引退を考えている。お客さんから「まだ続けてほしい」という声も受け、コロナの状況を見て最終的には、閉館するかを判断するという。九州最後のストリップ劇場が今 、 岐路に⽴たされている 。

 感謝状のほかにも、驚いたことがある。館内の消毒や入館者の検温を徹底し、客席では扇風機と空気清浄機をフル稼働させて換気にも努めていた。客席もソーシャルディスタンスをとり、1席間隔をあけて座っていたし、踊り子さんが替わるたびに、消毒も実施されていた。感染源になりやすく、クラスターがおこりやすい場所とは思えなかった。

 木村さんは、「心が折れてしまった」という。「ここまでして」という気持ちが痛いほどよく分かった。

「A級小倉劇場」の至るところに感謝状が飾られている=北九州市小倉北区「A級小倉劇場」の至るところに感謝状が飾られている=北九州市小倉北区

支援しないと、こんなに問題が生じる

 性風俗店を対象外とした理由について、梶山弘志経済産業相は「社会通念上、公的支援による支援対象とすることに国民の理解が得られにくい」(2020年5月11日の参院予算委員会)と説明した。

 納税して法律を守っているのに、国民感情で払わないなんて職業差別ではないか。合理的理由を説明できないなら、憲法の平等原則に違反する「差別」になる可能性があるだろう。

 私も「株式会社 笑下村塾」という小さな会社を経営している。コロナで、数百万円の赤字が出た。持続化給付金で200万円貰え、金銭面はもちろんだが、精神的にも大きな救いになった。中小企業のなかには、持続化給付金ですくわれた事業者もたくさんいるだろう。ところが「国民の理解が得られにくい」と政府が説明するのでは、「私たちは国から見捨てられた」と性風俗事業者が感じても仕方ないと思う。

 そして事業者が経営を続けられなくなると、働いている女性を守れなくなる。

 今コロナでバイトをするのも大変な状況だ。私が取材した大学生は、学費を自分で払っているが、バイトができなくなり、風俗をはじめようとした。ところが、新しく働けるお店がなく、個人での売春をするか悩んでいた。

 もちろん、売春は禁止されている。学費を払えず売春せざるをえない状況に学生を追い込まないよう、奨学金などの制度を改善する必要がある。ただ、そうした改善がなされず、事業者も立ちゆかなくなれば、個人で売春する人たちが増えるだろう。それでは、客がルールを破ったときにSOSを求めることもできず、いっそう危険な状況に置かれるのではないか。

 「納税していない事業者が多いから当然」「反社会的勢力がかかわっているから仕方ない」という意見もあるようだが、持続化給付金の申請には確定申告書が必要であるし、反社会的勢力とのかかわりというなら、風俗事業者だけを槍玉にあげるのはおかしくないか。

 また、「感染リスクが高いから除外されて当然だ」という人もいるが、除外されている事業者の中には、客との接触をおさえられるストリップ劇場や、個室ビデオ店やアダルトグッズショップも入っている。風俗事業者をこのように差別することで、保健所への協力なども得られにくくなると、感染ルートなどをおえない可能性も高まってしまうだろう。

「自民党の全体の議論」の結果、除外された

 それなのになぜ、風俗事業者は除外されたのだろうか。感染リスクをおさえるうえでも、社会的に弱い立場の人を守るうえでもメリットが少ないのに、除外の意思決定をしたのか。

 持続化給付金の対象の見直しを訴えた立憲民主党の寺田学衆議院議員に電話で取材した。

 「ラブホテルの方から困っていると連絡をもらいました。中小企業庁の前田泰宏長官に直接連絡しましたが、難色を示されました。そこで、菅官房長官にお願いしたら、即座に動いて政府内をまとめました。しかし、どうやら与党プロセスで岸田政調会長が猛反発をしてなくなったらしいです。菅さんからお詫びの電話をもらいました。ラブホテルで働く人にも、1人1人が生活者であって、いろんな働き方をしている生活が岸田さんには想像できないんだろうなということでした。経産省としての建前は、間接的に聞いたところによると、成長産業でもないラブホテルにお金を出すのは、持続化給付金の理屈とは違うから難しいからみたいです」と話して下さった。

 岸田さんに取材の申し込みをしたところスケジュールの都合で断られたが、岸田さんが反対されたことが本当かということと、反対されたなら理由を教えてほしいとねばったところ、書面で回答をもらった。

 「性風俗産業が持続化給付金の対象から除外された件について、岸田個人が反対したというご指摘ですが、これは自民党の全体の議論として出た結果でございますので、お伝えいたします」ということだった。

「子供を作るため」でなければ、性はいかがわしいのか

 自民党の中でどのようなプロセスがあり、反対に至ったかは分からない。

 でも、私は、またかと思った。自民党の中にある、家族や結婚、性の捉え方が世間から乖離しすぎているのではないか。結婚している夫婦が子供を作るために、セックスをするのが道徳的に正しいとされ、それ以外の性行為や性的サービスはいかがわしいという偏見である。

 先日、YouTubeの企画で、稲田朋美さんに取材したときも、自民党の価値観について聞いて驚いたことがある。「自民党でははっきり言う人と言わない人がいますが、結婚もしないで子どもを産んでいる女性は、ふしだらな人かキャリアウーマンなんだという前提があって、未婚のひとり親まで支援したら、わざわざ結婚しなくてもいいという人が出てきて、法律婚が壊れて、伝統的な家族も壊れるという理屈で考えられているんです」

 稲田さんは、未婚のひとり親が、寡婦控除の対象外になっていることがおかしいと思い、今回全力で奔走し、自民党の中での障壁を上記のように話して下さった。

 日本は性教育の後進国だ。望まぬ妊娠をして中絶する学生がいる。性教育をしていれば、その子たちを救える可能性がある。性教育をはやくはじめた方がいいというエビデンスがあるのに、このような古い価値観に縛られるから、本当に困っている人たちを救えない。

 今回の除外について、性風俗事業者も反対の声をあげた。関西地方で性風俗店を運営する業者が、8月に、国を相手に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。憲法が定めた平等原則に違反するという理由だ。国がどのように説明するのか注目が集まっている。

 厚生労働省が、子育てのために仕事を休まないといけない保護者に対しておこなったコロナ休業補償では、当初は風俗で働く人が対象外にされていたが、反対の声があがり、対象となった。厚生労働省と、経済産業省とでは、風俗で働く個人と事業者への対応が違っている。なぜ、違うのか私には理解できない。

日本からなくなる前に、ぜひ生で見て欲しい

初めてストリップ劇場を訪れた、たかまつななさん(筆者)=北九州市小倉北区初めてストリップ劇場を訪れた、たかまつななさん(筆者)=北九州市小倉北区

 昭和の時代の最盛期、全国に300軒あったというストリップ劇場。今は、全国で約20軒ほどだ。

 なぜそこまで少なくなったのか。過剰なサービスに走る劇場が出始めたことにより、1985年の風営法改正で警察の取り締まりが厳しくなり、性風俗サービスが多様化したことにより少なくなったのだ。

 また、ストリップ劇場は風営法によって、学校や図書館などから200メートル以上離れていなくてはならないなど、新規開業が厳しく制限されているのだ。すでに存在しているストリップ劇場は「既得権」という権利により営業が認められている。今ある劇場を維持できないと、ストリップの文化は衰退することが予測される。

 ストリップ劇場が、日本からなくなる前に、ぜひ生で見て欲しい。国から差別されるべき存在であるのか、「国民の理解が得られないから」と納税しているのに給付金がもらえないことが正しいのか、考えてほしい。

 亀石倫子さん×たかまつななオンライン対談
 「性風俗産業の差別を考える」

 日時:2月18日(木)19時~20時30分
 詳細:国が性風俗事業者を公的給付の対象外にしてきたことを「職業差別」として訴える活動をされてきた、刑事弁護人の亀石倫子さんと、たかまつななが対談。現状や課題などを深堀していきます。
 参加方法:下記からオンラインサロンに入会していただいたのちに詳細を共有いたします。
 https://community.camp-fire.jp/projects/view/364646