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朝鮮半島有事と邦人救出に備えよ

清谷信一

清谷信一

 北朝鮮が韓国の延坪島を砲撃したことを受けて、民主党政権は朝鮮学校への高校授業料無償化適用を見直す考えを示した。

 人さらいや爆弾テロ、麻薬の密売や偽札作り、人権侵害政権の世襲政治は許容できるが、隣国への砲撃は許されないというのだろうか。筆者には理解できないメンタリティである。

 それはさておき、我が国は半島有事に際に備えた韓国からの邦人救出を真剣に検討すべきだろう。現時点では法的制約があり(後述の通り)自衛隊を使った邦人救出はできないのだ。

 現在、韓国に居住、あるいは旅行などで短期滞在している日本人は数万人にのぼっている。有事にはこれらの邦人を速やかに救出する必要がある。それだけではない。韓国近隣の「大国」として、欧州などすぐには自国の救援機や軍隊を派遣できない国々などから自国民の救助を求められるだろう。日本人には「大国意識」はないだろうが、世界第2位の経済力を持ち、これまた世界有数の「軍隊」を有している国は世界では「大国」と認識されている。

 法整備の不備によってこれらの避難民の救出ができなければ、国際的非難の対象となり、日本の国際的な信用は大きく失墜するだろう。邦人救出はこれまでも話題になってきたが、今回の砲撃事件報道を多くの論者が解説するなかで、この視点が欠如しているのは残念だ。

 いちおう自衛隊法84条には、外国での災害、騒乱その他の緊急事態に際して自衛隊を邦人救出に使っていいことになっている。邦人救出は2007年度には自衛隊の本来任務に格上げされてもいる。

 自衛隊は、政府専用機ボーイング747を2機、人員も輸送できる空中給油機KC767を4機保有している。また、その他の戦術輸送機や数百機のヘリコプター、全通飛行甲板を持った実質的なヘリ空母「ひゅうが」級DDHヘリコプター護衛艦や、これまた全通甲板を有してLCAC(大型ホバークラフト)を運用できる「おおすみ」級輸送艦など、それなりの搭載量を有した艦艇も保有している。

 だが実際には邦人救出はできない。自衛隊法で「防衛大臣は、外務大臣から外国における災害、騒乱その他の緊急事態に際して生命又は身体の保護を要する邦人の輸送の依頼があつた場合において、当該輸送の安全について外務大臣と協議し、これが確保されていると認めるときは、当該邦人の輸送を行うことができる」と規定されているからだ。

 つまり、自衛隊ができるのは安全が確保されている場合の「邦人輸送」であり、安全が確保されていない場合、すなわち戦時やそれに準ずる事態において「邦人救出」はできない。

 イラクに陸自を派遣するときも、あそこは「戦闘地域ではない」からということで派遣された。また、この種の海外派遣でもいちいち特別立法をしなければならないのが現状だ。そもそも派遣先の地域が安全なら自衛隊が「救出」のために出て行く必要はないのに、である。

 戦時ともなれば、航空機や船舶などを派遣するだけではなく、戦闘部隊も派遣して空港や港湾などの安全を確保しなければならない。

 北朝鮮は10万人を越える特殊部隊を有しており、これらが韓国内に浸透したり、韓国内の協力者が破壊工作を行ったりする可能性は極めて高い。その場合、空港や港湾がターゲットになるだろう。

 さらには弾道ミサイルによる攻撃も予想される。弾道ミサイルがドンドン着弾するような状態では救出活動は困難である。この場合、韓国近海にMD(ミサイル防衛)に対応したイージス艦を配備したり、現地に対空ミサイルパトリオットによるMDが可能なPAC3の部隊も展開させたりする必要も出てくるだろう。となればこれは受け身ではあっても、北朝鮮との実質的交戦を意味する。

 外国人避難民や地元民がパニックに陥って空港などに殺到する可能性も高く、粛々と順番を守って飛行機に乗り込んでくれる保障はない。順番を巡って争いになったり、脱出を求める韓国人が暴徒と化したりする可能性もある。現場の治安のためには暴動鎮圧用の非致死性あるいは低致死性の装備や訓練も必要だが、自衛隊にはそのような装備はほとんどないし、そうした状況に対処する訓練もしていない。暴徒を鎮圧するためには丸腰で立ち向かうか、銃口を向けるしかないのが現状だ。

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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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