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今の日本には「政策羅針盤」が必要だ

鈴木崇弘

鈴木崇弘 城西国際大学客員教授(政治学)

 最近の日本国内では、政策や政治における議論が、失言やマイナーな問題に終始している。そのため、全体的視野から日本で本来議論すべき政策問題は何かという根本的な問題提起が失われがちではないだろうか。

 そのような時こそ、より本質的な問題の提起がなされ、それに関連して重要と考えられる問題や課題を、全体感を持ちながら的確に議論し、その解決策を見いだしていくという作業は、必要不可欠で重要だと思う。

 その意味で考えると、最近開催された「GPIフォーラム2010」(主催:グローバル政策イニシアティブ〈GPI〉=http://www.gpi-japan.net/、共催:城西国際大学大学院国際アドミニストレーション専攻=http://www.jiu.ac.jp/graduate/human/major/admin/index.html、 後援:国際交流基金CGP=http://www.jpf.go.jp/cgp/、Brand New Japan=http://bnj.jp/)は、興味深い会合であった。本稿でレポートしておきたい。

 同フォーラムは、テーマが「対内・対外政策の戦略的融合」で、日本を取り巻く国内外の問題に関して概観を議論する部分と、それを受けての事例に関する議論とから構成されていた。

 参加者は、具体的な個人名は省くが、政治や行政に直接かかわる方々、政策の専門家や学者、経済団体のシニアスタッフ、政策問題の現場に近いところで活用する方々、メディア関係者、政策に関心をもつ多様な方々などであり、熱心な議論がなされていた。

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 まず同フォーラムでどのような議論があったか、その特徴的な部分を述べておこう(文責はすべて筆者にある)。

1. 概観部分:「日本の成長戦略の課題」

 日本を取り巻く国内外の問題を、「安全保障・国際関係」「経済:財政」「エネルギー」などを中心に概観した。

(1)安全保障、国際関係、エネルギー

 ・日本は 『グローバル』という問題を果たしてどこまで深く捉えているだろうか。また安全保障分野はますます多岐にわたり、安全保障の定義が拡大している。そこにおいて、日本の広義の資源(リソース)はますます縮小している状況にある。そこでは、何を優先させ、どのようにリソースを配分していくか、しっかりした戦略が必要である。

 ・中国の国防費が増大しているが、日本の防衛費は減少している。鳩山政権以降、日米同盟も揺らぎ、日本が高齢化しているなど大きな変化が起きている。

 ・日本は、人口規模でEUを超えるASEANとの関係をしっかりおさえることが大切だ。

 ・エネルギー問題は、安全保障や産業などの問題でもあり、多様な側面から考察が必要である。日本と産油国(主に中東)との関係も、産油国の脱化石燃料や新産業による産業構造の転換も含めて、政府では動きづらいので、大学レベルで中東と交渉し、新しい可能性を模索している。

(2)経済

 ・日本自体も、世界に類を見ない急速な人口減少と高齢化という問題に直面しつつある。

 ・それらに対応した市場や都市再生が必要であり、さらに経済活性化のために、国際化に対応できる制度や慣行の抜本改革、そして国際交渉への積極参加などにより、国際相互依存の深化や自国に有効かつ有利な国際標準化戦略なども必要だ。

 ・農業、医療・介護・保育などにおける新たな産業化や低炭素社会の構築なども必要である。

 ・他方、経済界に、ソニー創業者の盛田昭夫や富士ゼロックスの小林陽太郎のような企業や産業を超えた人材がいない。

(3)財政、政策形成・決定プロセス

 ・日本にもアイデアは数多くあるが、実際に結びつかない。これらを実現可能にするためのプロセス、制度改革が最も必要だが、そうした改革が大きく欠けている。

 ・特に立法府は、国会日程の争いをしているだけで、政策機能が大きく欠如している。立法府には独自のデータや資料もない。

 ・日本の財政規律は、1990年代と2000年代を比較すると、ますます悪くなっている。日本の財政の透明性は世界の中でも極めて低い。国際的に比較してみると、日本の財務大臣は世界で最も弱く、そのために財政規律が悪くなっている可能性がある。そして、日本の予算員会は、世界で一番予算の議論をしていない。

 ・現在の民主党政権は、政策決定メカニズムの具体的なスキームが構築できていない。ぜひ、PDCAサイクル(Plan・計画→Do・実行→Check・評価→Act・改善)を構築すべきだ。

 ・日本の現状を考えると、政権移行プロセスをシステム化し、内閣に参画できる政治家を増やして政治主導できるようにすることが必要。さらに、官僚の専門職化を図り、スーパー公務員制度を構築する必要がある。

(4)その他

・科学技術ひとつとっても、日本が成長戦略に掲げる政策は多種多様にわたっている。しかしながら、そうした政策項目が挙がっているということと、その政策を実際に実施することは、別の問題である。法律、倫理、規制のマネジメント、市場の側面で基盤を整え、それらを絡ませない限り、政策実施は実際にはできない。

2.個別政策課題事例:「外国人労働者をより良く受け入れるための政策選択肢とは」 

 上記のような日本のおかれた状況の中で、具体的な政策課題でどのようなことを考えるべきかという議論があった。

(1)前提

 ・グローバルな変化の文脈の中で、世界で最も進む「日本の高齢化」の意味を考える必要がある。 

 ・外国人労働者・移民を受け入れるか否かという段階で留まっている議論を一歩進めて、受け入れる場合の政策課題を考える必要がある。また現状を精査し、受け入れを前提に、より良く受け入れるためのあり方について考えるための政策論議の土壌をつくるべきだ。受け入れる土壌を作るには何十年もかかる。受け入れが決まってから考えているのでは遅すぎる。今回は、労働環境、教育、医療の3つの側面をケーススタディに実施している。

 ・高齢化の問題は一国の問題でない。程度の差こそあれ、世界的にも、特に先進国で刻々と差し迫る問題として存在する。グローバルな文脈の中で、それぞれの国の高齢化の問題を映し出すと、多くの政策的課題・影響が顕在化してくる。他方、多大な課題・影響にただ圧倒されてしまうのではなく、国家の枠を超えて、さまざまな共通課題や、個々に散らばるグッドプラクティスを体系化したり、知識を融合することによって、より良い対応方法を検討する基盤を作ることができる。

 ・高齢化の問題は、マクロレベルの視点だけで切り取ってしまうと、「問題」の大きさだけが見えてしまい、社会の不安要因や、国対国の力の競争といった切り口から問題を捉えがちになる。他方、ミクロレベルの取り組みから見てみると、困難な問題を抱えてはいるが、地方レベルや自治体、NGOによるさまざまな取り組みが存在する。しかしながら、このようなミクロレベルの取り組みは、マクロレベルには届きにくく、政策論議の中に容易に組み入れられない傾向にある。その意味で、マクロ・ミクロの両レベルのそれぞれの課題を抽出しながら、特にミクロレベルのより良いアプローチ、プラクティスを明らかにし、それらを政策レベルに伝えていくことが必要だ。

 ・日本の高齢化にかかわる政策論議は、女性の労働力の活用から社会保障改革に関わるものまで、幅広く多岐にわたる。しかし、国内および国際の両面における高齢化社会や政策を取り巻く環境が大きく変化している状況を捉えた政策的視点が、ほとんど組み込まれていない。特に外国人労働者・移民の受け入れをめぐる議論は約20年にわたって続けられているが、今も入口の議論に終始している。その結果、日本では、加速する高齢化社会の中で、移民・外国人労働者をどのように捉えていくのか、という文脈での本格的な政策論議が限定的、断片的にしか行われていないのが現状である。

(2)労働力 (高齢者看護士・介護士のケース)

 ・米国でも、看護婦/看護士は相対的に不足している。高齢者看護士・介護士の23%が外国生まれ(約12%がほとんど英語が話せない)。

 ・高齢者介護職員に対する社会の理解も依然として低い。高い離職率、シフト制労働時間 、認知症へのケア 、家族構成の変化、都市化による住居環境の変化、地域密着型ケアに対応するホームケア職員の不足など、多くの課題が存在する。

 ・特に、外国人介護者を受け入れる際の問題点として、〈1〉言語〈2〉教育制度の違い〈3〉文化背景の相違から生じる介護に対する態度  の違い〈4〉コミュニケーション方法の違い〈5〉トレーニングや教育にかかる時間の賃金補助、などが挙げられる。

(3)教育

 ・米国では、合法・非合法滞在者にかかわらず学齢児童には公教育を保証している。

 ・これに対し、 日本では、非日本人国籍児童には教育の義務化はない。文科省を中心に、定住外国人の子どもの教育政策懇談会、ブラジル人児童の教育に対する緊急措置(「虹の架け橋」教室)は行われているが、応急措置に留まっており、総合的・長期的な政策が欠如している。児童の言語や文化の背景に即した教育推進が必要である。

 ・教育は子どもの人権であり、将来、経済・社会的に社会に参加するために必須である。

 ・外国人生徒は急増し、多様化している。こうしたニューカマーの外国人に対し、多文化共生をキーワードにした自治体の取り組みが数多くなされている。一方で、国レベルで見ると政策が統合化されていないのが実情である。これ以外に、教育機会が持てなかったオールドカマーについて対応していく必要もある。

(4)医療

 ・日本では、医療も病院経営との関係から経済・景気に大きく影響を受けており、1990年代には様々な取り組みが試みられたが、過去10年間は、医療に関する取り組みが停滞・悪化傾向にある。

 ・医療機関による外国人労働者の受診拒否が増えている。しかし、報道がなされていない。外国人医療を行っている医師からの聞き取りによれば、明日命を落とすかもしれない人々を見捨てているケースも後を絶たない。

 ・外国人に対する医療分野の大きな特徴は、日本で国家レベルの取り組みが皆無ということである。また一部の自治体(東京・神奈川)の取り組みと、その他の自治体の取り組みに大きな差異がある。

 ・日本において、外国人労働者・移民を取り巻く優先的課題は、〈1〉緊急医療体制(未払い補填制度)、〈2〉医療通訳(医療通訳制度)、〈3〉医療アクセス・医療コミュニティの3点である。

 ・米国でも、これらにかかわる多くの問題はあるものの、国家レベルの政策、制度、体制は、ある程度確立されている。日本の国家レベルの取り組みを促していく必要がある。移民の健康維持は、結核、エイズなどの感染症に代表されるように、結果として日本全体の公衆衛生の問題にもかかってくる。

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 以上のようなフォーラムでの議論を聞いていくと、次のようないくつかの視点・論点が重要であるということがわかる。

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筆者

鈴木崇弘

鈴木崇弘(すずき・たかひろ) 城西国際大学客員教授(政治学)

城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科客員教授。1954年生まれ。東京大学法学部卒。マラヤ大学、イースト・ウエスト・センターやハワイ大学大学院等に留学。東京財団の設立に関わり、同財団研究事業部長、大阪大学特任教授、自民党の政策研究機関「シンクタンク2005・日本」の設立に関わり、同機関理事・事務局長などを経て現職。中央大学大学院公共政策研究科客員教授。著書に『日本に「民主主義」を起業する――自伝的シンクタンク論』『シチズン・リテラシー』『僕らの社会のつくり方――10代から見る憲法』など。

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