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武器禁輸緩和(2)日本の兵器は世界で売れない

清谷信一

清谷信一

 武器禁輸を緩和すれば、優秀な日本の兵器はまたたく間に世界の市場で飛ぶように売れ、たちまち日本の景気は良くなる、というような話を一部の識者がしている。

 このような「国産兵器信仰」の「信者」の主張を聞くと、日本人は優秀だから、という根拠なき自信が見え隠れするような気がする。率直に申し上げて、それはフランス書院の紳士向け小説並みの都合のいい妄想に近い。

 確かに我が国の工業のレベルは高い。造船も自動車も、精密機械でもエレクトロニクスでも素材産業でも、極めて我が国の企業の競争力は高い。だが、だから兵器もそうであろう、というのは乱暴な論理の飛躍だ。その説が正しいのであれば、軍用(自衛隊)機の技術転用が極めて容易な航空機の分野で、何故に我が国の旅客機やビジネス機、果てはヘリコプターにいたるまで、自前の機体がほぼゼロで、国内の航空関連産業は外国企業の下請けに甘んじてきたのだろうか。

 防衛産業以外の日本メーカーの競争力が強いのは、極めて競争の厳しい国内市場で戦い、さらには海外市場で外国企業と戦って生存競争を勝ち抜いてきた「勝者」だからだ。それに対して、日本の防衛産業は、12月4日付「武器禁輸緩和(1)国際共同開発の前に国内共同開発を」で触れたように、武器輸出三原則等の制約で輸出ができないから国際市場での競争はない。しかも国内市場でも各兵器、各メーカー間での「棲み分け」が行われおり、競争がない。長年、防衛省や自衛隊からの天下りさえ受け入れていれば仕事が確保されてきた温室育ちなのである。

 かつてのソ連の軍需産業ですら、もっと国内競争があった。例えば戦闘機ならミグとスホーイの両設計局が競ってきた。むろん輸出も行ってきた。つまり日本の防衛産業は、社会主義国よりも社会主義的な存在なのだ。だから、各メーカーがホンダやトヨタ並みのコスト意識や技術力をもっているわけではない。単に日本人だから優秀というならば、社会保険庁やJALも優秀な組織だということになってしまうではないか。

 1990年代以降、ソ連の崩壊に伴って、東西に分断されていた世界の兵器市場は統合された。さまざまな国のメーカーによる新規参入が増え、中古兵器の市場も整備されて買い手市場になった。構造不況産業と言っても過言ではない。兵器の国際市場では、性能はもちろん、激しい価格競争が繰り広げられている。このような市場で、今すぐにでも日本企業が互角に戦えると考えるのは、楽観論を通り越している。

 前回の記事でも述べたが、ただでさえ価格が高い国産兵器に価格競争力はない。

 市場経済を経験していない我が国の兵器はコスト意識が働かず、量産効果も見込めないため、おおむね諸外国の3~6倍程度の単価となっている。そのような高額な兵器は市場では売れない。

 「国産兵器信仰」の「信者」たちは、外国産兵器を輸入すれば2~3倍の価格になる国産品の方が結果として割安か同じくらいの値段になるはずだ、自国用よりも劣ったモンキーモデルを掴まされる、と説く。

 だが、そのような事実はない。そもそも輸入兵器の購入価格が常に2~3倍になるのであれば、我が国の兵器を諸外国が購入する価格も2~3倍になるということである。1輛約10億円の10式戦車ならば20~30億円になる。これに対してドイツのレオパルト2戦車の最新型は12~14億円程度である。勝負にならない価格差が生じる。1丁32万円の89式小銃ならば160~240万円、これに対して米軍のM-16ライフルやM4カービンは1丁5~6万円程度である。

 ただし、輸入兵器がすべて高いわけではない。例えば、我が国が輸入した輸送機C-130Hの価格は40.4億円で、米空軍の調達コストは35.5億円であり1.14倍程度に過ぎない。しかも割高といわれているFMS経由(米軍がいちどメーカーから兵器を購入した後、それを諸外国が購入するシステム)での調達である。

 一般的に、我が国で輸入兵器が高い理由は、調達期間も調達数も確定せず、長年にわたってダラダラと少ロットで輸入してきたことが大きい。例えば100輛の戦車を1回で輸入するのと、毎年5輛を20年で20回輸入するのでは、人件費などが単純に20倍もかかる。

 また、防衛省・自衛隊の意思決定が遅いし、プロセスが不透明だから、商社やメーカーは大目にマージンを見込む必要がある。国内メーカーからの調達についても、同じネックが生じている。

 モンキーモデルに関していえば、F-22戦闘機やAWACSといった高価な最新鋭兵器で、価格競争力が高いとはいえない一部の兵器やシステムには当てはまるが、これらは例外である。比較的ポピュラーで汎用性の高い輸入兵器は、多くの場合、コンペが行われるので、性能を落とした兵器を出せば競争で負ける。

 最近ではむしろ、自国の軍隊が装備していない最新兵器が他国に真っ先に輸出されることも少なくない。ロシアなどは最先端の超音速対艦ミサイルやステルス戦闘機を「お得意様」のインドと共同開発している。ロシアだけでは開発費を捻出できないからだ。

 確かにかつてソ連が存在し、東西対立ブロックが対立していた時代には、最新技術を盛り込んだ兵器は売り手市場だったたし、その供給先も限られていたので技術の囲い込みも行われてきた。だが当時の古い「常識」を21世紀に振り回していては真実が見えない。米国やロシアなど大国の兵器メーカーであっても、モンキーモデルを高値で売るなどという「殿様商売」をしていれば倒産が待っているのが、21世紀の兵器市場である。

 また「国産兵器信者」は、輸入兵器は我が国固有の環境に適していない、だから国情にあった兵器開発が必要である、と説く。

 確かに国情にあった兵器は必要だろう。だが、以前紹介した偵察用ヘリコプターOH-1のように、他国でまったく存在しないような特異かつ高価な兵器が本当に必要だったのだろうか。自衛隊には、そのような特異な装備が多すぎる。むしろ国産開発の正当化のために他国には無い特異な兵器を無理やり開発している節がある。

 仮に、それほど我が国の環境が特異であるのならば、そのような極めて特殊環境に適合した兵器は、環境の異なる諸外国では必要ない、ということになる。

 さらに問題なのは、自衛隊も国産メーカーも兵器開発に必要なR&D(研究開発)コストが少ないことだ。我が国は戦後、戦争をいちども経験していないし、輸出 ・・・続きを読む
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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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