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ウィキリークス情報漏えいの米外交政策に与える影響と日本

若林秀樹

若林秀樹 若林秀樹(アムネスティ・インターナショナル日本事務局長)

 外交の本質とは、元外務次官の小和田恒氏の言葉を借りれば、「国益をかけた戦いに武力という手段を用いることなく、知識、洞察力、判断力、説得力、その他あらゆる全人格的な能力を結集して国益をかけて戦う真剣勝負」である。つまり外交とは、国家間の国益をかけた戦いそのものであり、「武力」に代わるパワーの源泉が「情報」なのである。その意味において、ウィキリークスによる情報漏えいは、その「情報」の力としての「量と質」が暴露された点において、米国の外交にとっては大きな打撃である。

 もちろん、国家間の権力争いが存在するかぎり、今後も国益をかけたインテリジェンス活動や、それに対抗するカウンターインテリジェンス(情報を守る防諜)がなくなることはない。ましてや、今回のウィキリークスのように、国家秘密を暴くような活動がこの世から消えることはないし、むしろそうあってはならないのである。

 しかしウィキリークスの政府内文書や外交公電の暴露は、人々の知る権利に応え、世の中を正す正義のメディアなのであろうか。さしずめ、罪のない市民まで殺してしまう無差別爆弾でないか。創設者のアサンジュ氏は「権力の横暴と戦うことこそ、ジャーナリズムの役目。権力というものは、挑戦されると決まって反論するものだ」と言うが、その言葉に説得力はない。

 内部告発による秘密の暴露は、今に始まったものではないが、インターネットというオープンな情報システムにより、匿名性をもってここまで大量の情報が流れたのは初めてのことである。現時点で、米国政府がどのような対策を取るのか明らかではないが、今回の情報漏えいの最大の原因は、政府内の情報管理に問題があったからであり、当面は、その管理のあり方がより厳しく見直されることは間違いない。

 米国にとって諜報活動は、国家外交・安全保障戦略を推進するための最大の柱である。政府のホームページによれば、諜報共同体(Intelligence Community)は、大統領の下に、国家安全保障省(DHS)、国家安全保障局(NSA)、中央情報局(CIA)、国務省情報調査局等、17組織により構成され、職員数は明らかになっていないが、断片的な情報を積み上げると、少なくとも25万人はくだらないであろう。

 しかしこれだけの米国の組織でさえ、イラクの大量破壊兵器保有情報は間違いであったし、9.11同時多発テロの動きは見抜けなかったのである。そして、縦割り組織の弊害としての反省から、9.11以降、組織間の情報を共有化する試みが行われ、かなり改善されたと言われている。しかし今回の公電の漏えいで、国務省は早速、その原因と見られている「SIPRNet」という秘密情報の共有システムにおいて、国防総省の国務省外交公電へのアクセスを停止したと言われている。これではせっかくの情報共有化という流れに水をさすことになり、組織間の意思疎通を阻害し、9.11と同じ間違いを犯すことになりかねない。

 その上で、日米関係への影響として考えられるのは、米国の日本への情報提供が益々限られてしまうということだ。ちなみに

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