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海兵隊不要論の大いなる誤解

小谷哲男

小谷哲男 小谷哲男(NPO法人岡崎研究所特別研究員)

 鳩山由紀夫前首相が、海兵隊抑止力論は「方便」だったと発言したことが波紋を広げている。鳩山前首相は、普天間飛行場の移設先を「最低でも県外」にすると公約して日米同盟全体を揺るがし、地域諸国の間にも今後の日米同盟の方向性に関する懸念を生み出した。結局、鳩山前首相は8カ月の迷走の後に当初の辺野古移設に回帰し、その理由としてアメリカ海兵隊が抑止力を維持していることを挙げたが、今回の発言は普天間移設に関する日米合意の前提を揺るがす無責任窮まりないものである。

 政府および与党民主党はこの鳩山発言の打ち消しに躍起になっているが、「海兵隊は抑止力である」と繰り返すだけで、なぜ海兵隊が抑止力なのかという説明はなされていない。それは自民党政権時代にも説明されてこなかった。しかし、海兵隊が抑止力であるという論理的な説明がなされない限り、海兵隊不要論はくすぶり続け、海兵隊抑止論が説得力を持つことはないだろう。

 海兵隊不要論の背景には、海兵隊に関する根深い誤解が広がっていることが指摘できる。それは、アジア太平洋地域の安全はアメリカ海・空軍のみによって守れるため、上陸作戦が必要となるような事態は起こらず、地上部隊としての海兵隊は不要だというものである。また、海兵隊不要論の論拠として、沖縄の海兵隊が軽装備であることや、部隊の駐留する沖縄と強襲揚陸艦の配備される佐世保の距離が遠いこと、また佐世保の揚陸艦だけでは大規模な部隊の輸送ができないことなども指摘される。

 確かに、アジア太平洋地域は広大な海洋戦域であり、そこでは海軍力と空軍力が決定的な役割を担う。しかし、現代は統合戦の時代であり、海軍と空軍だけで戦争に勝利することはできない。湾岸戦争、コソボ紛争、アフガニスタン戦争、イラク戦争等、近年のどの主要な戦争をみても地上部隊の投入のなかった例はない。非戦闘員の救出や、近年重要性が高まっている人道支援・災害救援でも地上部隊は不可欠である。

 そもそも、海兵隊は地上部隊ではなく、海軍と緊密に行動し、海上から統合された空陸統合戦力を投入する水陸両用戦力である。その軸足は常に海に置かれる。沖縄の海兵隊は、常にその一部(2200人)が15日間の戦闘任務を継続できる装備と補給品と共に揚陸艦に乗って洋上に展開しており、有事の際はこれが即応するとともに、必要な場合は橋頭堡を確立して後続部隊の受け入れを行う。沖縄にいるのは待機部隊で、後続部隊として輸送機で空から前線に輸送され、後続部隊の装備と補給品は西太平洋に常に展開している事前集積船団によって海から輸送される。こうして、沖縄、ハワイ及びアメリカ西海岸から1週間以内に2万人の海兵隊員が火砲、戦車、ヘリ、ブルドーザー、装甲車などを備えて前線に集結し、30日間の戦闘任務を継続するのに十分な戦力を確立する。

 以上のように、事前集積船団に支えられた沖縄の海兵隊は決して軽装備ではない。また、紛争が勃発してから佐世保の揚陸艦が沖縄まで海兵隊を迎えに来るわけではないので、沖縄と佐世保の距離が離れていることや、佐世保の揚陸艦の数が少ないことは問題とはならない。

 なお、2万人の海兵隊員を空輸するには、のべ250ないし300回の輸送が必要だが、

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