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「共和国の娼婦」と呼ばれた女の捨て身の逆襲(上)

小北清人

小北清人 朝日新聞湘南支局長

 正直、彼女のことをまた耳にすることになろうとは思わなかった。

 韓国では、「とっくに終わったひと」のはずだった。

 彼女の名前は「申貞娥(シン・ジョンア)」。今を去る4年前、2007年の韓国で、おそらく大統領夫人より有名だった女性だ。独身。この4月末で39歳になる。ただしその名声は、学歴を偽って大学助教授に成り上がり、「権力中枢にいる男と寝て出世した」魔性の女、としてだ。

 「共和国の娼婦」。ある有力紙はそう彼女を呼んだ。

 「シン・ジョンア事件」に世間の注目は加熱、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領(当時)が北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記と行うことになった南北首脳会談(07年10月)さえ事件の熱気に霞んで見えるほどだった。

 「盧武鉉政権時代(03年2月~08年2月)で最も騒がれた事件」といまも語り草になっている。

 「事件」のあらましはこうである。

「魔性の女」とも呼ばれた申貞娥(シン・ジョンア)=東亜日報
 ソウルの有名美術館の若き企画責任者として脚光を浴びる美貌の女性シン・ジョンア。米カンザス州立大を卒業し、名門イェール大で西洋美術史の博士号を得た才媛で、05年9月に仏教系の東国大学で助教授に就任。国立現代美術館の推薦委員を務め、美術専門誌でも活躍ぶりが取り上げられていた。有力新聞にコラムも書いていた。

 ところが、韓国指折りの国際美術展「光州ビエンナーレ」08年展示会の芸術監督への彼女の就任が発表されて間もない07年7月、彼女のイェール大博士号証明書が「真っ赤なウソだったのが内部調査で判明した」と東国大が明らかにしたのだ。イェール大も彼女が博士号を取得した事実はないと発表した。

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