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中東動乱――各国の協調で危機の回避を

宮田律 静岡県立大学国際関係学部准教授、NPO法人現代イスラム研究センター理事長(現代イスラム政治)

中東の「民主化ドミノ」は、シリアに波及した。政府軍が民衆に発砲するなど、緊迫化している。この「ドミノ」がサウジアラビアなど湾岸諸国で本格化すれば、日本経済への大きな影響は避けられない。チュニジアに始まった中東動乱の意味をあらためて解説する。

 シリアは、イラクのサダム・フセイン政権と同様に、バアス党(アラブ社会主義復興党)が支配してきた国で、社会主義という性格から北朝鮮とも良好な関係を築いてきた。二〇〇七年にイスラエルが空爆して破壊した核関連施設も、北朝鮮の技術協力があってできたものとされている。アサド政権が中東民主化のうねりの中で崩壊することがあれば、国際的に孤立する北朝鮮にとっても打撃となる。

 アサド大統領は、二〇〇七年の大統領信任投票で「九九%」という得票率で二期目の再任を果たしたことからもわかるように、選挙にも不正な介入を行い、強権的手法を貫いてきた。  

 またアラブの大義を掲げてきたアサド政権は、パレスチナの武装組織であるPFLP(パレスチナ解放人民戦線)やDFLP(パレスチナ解放民主戦線)、さらにパレスチナのイスラム組織のハマスや、イスラム聖戦機構の活動を国内で認め、支援を与えてきた。アサド政権が打倒される事態となれば、これらのパレスチナの大義のために闘争する組織にとっては大きな痛手となることは間違いない。

 イスラエルとアメリカは、イスラエルと平和条約を結ばず、反イスラエル勢力を支援してきたシリアのアサド政権の崩壊を歓迎するかもしれない。しかし、アメリカが太いパイプをもってきたエジプトの軍部とは異なり、シリアには政権の受け皿がない。反体制組織として最大のものは、アサド政権の弾圧を受けてきたムスリム同胞団だが、この反米、反イスラエルのイスラム組織をアメリカやイスラエルが歓迎することはない。 

カイロのシリア大使館前で、「人殺し閣下」と書かれたアサド大統領の写真を掲げて反政府デモに参加した人たち=AFP時事
 また、自暴自棄になったシリアが対外的な危機をつくりだし、イスラエルへの敵対姿勢を強める可能性がある。イスラエルは一九六七年の第三次中東戦争によって占領したシリア領ゴラン高原の警戒態勢を強化するなど、あらゆる事態を想定するようになった。イランはシリアとの間で安全保障条約(一九九八年成立)があるため、アサド政権を守るためには協力を惜しまないだろう。イランがその治安部隊をシリアに送ったという情報もあるほどだ。
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