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「なでしこ」を日本の国家ブランドに

川村陶子

川村陶子 川村陶子(成蹊大学文学部准教授)

 なでしこジャパンの女子サッカーW杯優勝は、震災と原発事故、政治の混迷に苦しむ日本の私たちに、元気と笑顔をもたらしてくれた。しかし、それだけではない。なでしこは、「3・11」以来悪化していた諸外国の日本に対するイメージを、劇的にプラス方向へと変えている。

 W杯開催国ドイツでの反応は典型的だ。勝利の翌日、報道はなでしこジャパンへの称賛に満ちあふれた。「青い奇蹟」、「絶対的な意思」、「勝負強さ、戦術面での規律、チームとしての一体感」。強豪米国を相手に、先制されても決してあきらめずに戦う姿勢、最後までとぎれない集中力と冷静さ、勝利の後も相手チームへの敬意とサポーターへの感謝を忘れない品格ある態度は、ドイツのメディアを圧倒している。Nadeshikoや、ドイツ語でなでしこを表すPrachtnelkenは、日本人女性の代名詞として今やすっかり定着した。

宮間あや選手(右端)から贈られたサイン入りのユニホームを手に「なでしこジャパン」の佐々木則夫監督や沢穂希と話す菅直人首相=7月19日
 なでしこが象徴する肯定的イメージの日本(人)像は、「3・11」後の日本が、世界の中で是非とも必要としているものである。近年流行している国家ブランディングの考え方を用いるなら、「なでしこ」は日本の国家ブランドとしてまさにぴったりといえるだろう。

 ドイツのメディアは、東日本大震災以降、ネガティブな対日報道を繰り返してきた。津波や地震の被害を報じる際には、水面に浮かぶ車や家の屋根、どこまでも続く瓦礫の写真とともに、「黙示録を思わせる災厄」を意味するApokalypseという名詞がしばしば用いられた。聖書の黙示録では堕落した者に対して神の審判が下される。震災が起きた後、ドイツに滞在していた筆者は、街角で売られる新聞の見出しを目にするたび、まるで日本人に天罰が下ったと言われているような気持ちになった。

 さらに、原発アレルギーがもともと強かったドイツでは、早くから原発事故とその被害に注目が集まった。「東日本全体が人間の住めない地域になる」といった誇張された情報も伝えられ、在京の大使館関係者を含めたドイツ人の多くが首都圏から「消えた」のは周知の通りである。

 その後も東電の対応ミスや政府の混乱が厳しい表現で伝えられる一方、福島第一原発で復旧にあたる作業員が神風特攻隊にたとえられるなど、偏見のこもった論調が表れるようになった。ベルリン自由大学で日本研究に携わるイルメラ・日地谷=キルシュネライト氏は、『ヴェルト』紙のインタビューで、ドイツのメディアが、不平不満を口にせずに苦難を堪え忍ぶ被災者の様子を、「日本人とは

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