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シリアの血塗られた風景が見えてくる……

高橋和夫 放送大学教養学部教授(国際政治)

 3月に始まったシリアでの大規模な抗議行動は6カ月目に入っている。厳しい弾圧にもかかわらず、抗議運動はシリア各地に広がっている。

 8月5日はラマダン(断食月)に入っての最初の金曜日つまり集団礼拝の日であった。デモの規模は更に大きくなり、弾圧も激しさを増した。注目されるのは、ダマスカスの近郊とアレッポ市内での抗議行動が伝えられたことだ。この二つの大都市は、シリアを長年支配してきたバース党政権の支持基盤であり、これまで平穏であった。デモは続き、弾圧も続いている。宗教感情の高まるラマダン月に衝突のレベルも上がった。

シリア・ハマ中心部で7月29日、イスラム教の金曜礼拝後にアサド政権打倒を訴えるデモ隊=ロイター

 これほど長期にわたり抗議活動が続き、しかも、これほど各地に抗議活動が広がったという事実に、民衆の政権に対して抱く不満の強さが分かる。

 バース党政権のアサド大統領は、年末までの複数政党制の選挙を約束するなど譲歩の姿勢を見せている。だが民衆側は弾圧による犠牲の大きさもあって、現政権の退陣という要求を引き下げようとはしていない。そもそも政権の約束を信用できるとは思っていない。

 同時に、これほど激しい、これほど長期間の、これほど広範な抗議行動にもかかわらず、政権が倒れる気配はない。軍や治安当局に大規模な反乱の兆候は、ない。弾圧に動員されているのは、アラウィー派だけから構成される陸軍の第四師団などが中心となっており、多数のスンニー派の兵士を含む部隊は使われていないとも報道されている。軍の動向に政権が神経質になっているのが推測される。

 政権には抗議活動を押さえ込む力はなく、

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