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落合ほど「幸福」な監督もいない

小北清人 朝日新聞湘南支局長

 落合退任については中日球団が理不尽だとか不当だとか、優勝したのに辞めさせられる落合は可哀想だとか、いろいろいわれているが、わたしは実際の話、「近年、落合ほど幸福な監督はいないんじゃないか」と思う。

 プロ野球の監督というのは、いずれは辞める商売である。たいていは成績低迷が2~3年続き、ボロボロになってクビになる。ファンからは手のひらを返すように「人間のクズ」の如く罵倒され、静かに消えていく。今年の阪神監督・真弓の辞任がそうだ。来年も続投の予定だったのが、ファンと関西の野球マスコミにコテンパンに叩かれ、球団がクビの断を下した。

日本シリーズ出場を決め、ファンに手を振る中日・落合博満監督=11月6日、ナゴヤドームで

 それに比べ、落合は、何と幸せなことだろうか。

 チームは今年、セ・リーグを制覇し、彼の優れた名監督としての実力・名声はいよいよ増した。中日監督8シーズンのうち、リーグ優勝4回、Bクラスなし、日本シリーズでも優勝。抜群の成績を残した「栄光の大監督」として監督人生に一区切りつけることができたのだ。ボロボロで辞めさせられるどころか、キンキラキンの成績のまま終わるという「最高の辞め方」である。

 もちろん、落合自身の憤懣(ふんまん)は改めてここに書くまでもあるまい。だが中日球団というのは親会社である中日新聞のいわば付属物で、特に同紙運動部が監督、コーチ人事にまで強い影響力を及ぼすところだと友人のスポーツライターから聞いたことがある。

 そんな「ムラ社会」の利権を排除し、コーチに中日OBを使わず、系列のスポーツ紙にも冷たい態度を取り続けた落合。彼は確かに中日をリーグ屈指の強力チームに育て上げた。だが小姑たちは機会あらば彼を弾き出そうと待っていたのだ。小姑たちにとってはチームの勝利以上に大事なものがあった。それは中日グループという「ムラ社会」内部の保身と権益擁護の論理というべきもので、観客動員数云々というのは付け足しに過ぎないと思う。その意味で、落合の「追放」は来るべきものが来たといえるのだ。

 落合は確かに多くのいい選手を育てた。だが

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