2011年11月14日
筆者の知るところでは、確かな形跡はまったくと言っていいほどない。
日本の首相が次々と退陣し、外交に指導力が及ばなくなっていくなか、外交は外務省など事務方が前例を踏まえて進めてきた。民主党は「政治主導」を言いながらも、アジア主要国とのパイプは皆無に等しく、比較的得意とする対米外交も、国務省や国防総省などの課長級やシンクタンクの研究員らとのつきあいに励むのが精いっぱいである。その力のなさを官僚が補強すると、政治家は不機嫌になり、官僚が埋めないと不愉快になる。幼稚園の園児と先生のようだ、と言っては言い過ぎか。
何があっても米国が大事な外務省は、「東アジア共同体」を唱えた鳩山由紀夫政権の誕生に面食らった。だが、後継の菅直人や野田首相の視線を米国に向けることに成功した。中国が東南アジア諸国と角突き合わせる南シナ海問題でも、米国とともに「航行の自由」をアピールし、東南アジアと安全保障面での関係強化さえ打ち出した。
中国はこの動きを「対中包囲網」ととらえて警戒してきたが、日本側からその警戒をほどくような積極的な働きかけはなかった。そんななかで、野田政権は近隣国に詳しい説明もなく環太平洋経済連携協定(TPP)にのめり込んでいった。国内さえ説得できないのだから、当然といえば当然だが、外交的にはマイナスである。
昨年の尖閣沖漁船衝突事件でも露わになったように、民主党の中国とのパイプはか細くもろい。信頼関係の構築にはほど遠い。そんななかで、対米傾斜にのめり込めば、日中関係はさらにもろくなる。
中国政府は東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス日中韓3カ国の枠組みを軸に貿易自由化を進めようとしてきた。一方、米政府はTPPを対アジア戦略の柱として、早期合意を目指している。背景にはアジア市場での中国との主導権争いがある。
そしてTPP論議は経済だけにとどまらず安全保障と絡められて語られる。「TPPのミソは、
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