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武器輸出緩和と防衛産業(下)――何を守り、何を捨てるのか

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 保守論壇の中には、我が国が武器を輸出すれば、世界中で売れ、防衛省向け装備の調達単価が著しく低減できる、と主張する人が少なくない。だがこれは完全なイリュージョンだ。

 我が国の装備=兵器のレベルはそれほど高くないし、値段は外国に比べて3~6倍もする。これは谷田邦一氏の「武器輸出三原則の緩和、野田政権の本当のねらい」(WEBRONZA)を読めばご理解いただけるだろう。

 実戦の経験もなく、市場を経由した他国のユーザーから呵責のないフィードバックもなく、基礎研究や開発費をケチり、国内の競争もない社会主義的なシステムの下、実戦を想定しない呑気な環境で開発・生産された装備が他国で売れるわけがない。

当初250機調達される予定が、34機で中止となったOH-1。開発費を含めれば一機あたりのコストは約60億円と、他国の偵察ヘリの10倍前後の価格=筆者提供

 昨年の東日本大震災では数百億円をかけて開発・調達した陸上自衛隊のUAV(無人機)は全く飛ばなかった。長年技本(防衛省技術研究本部、実際は日立)が開発してきたUGV(無人陸上車両)は、試作品とはいえ原子炉の偵察には使用できたはずだ。その後、防衛省はボーイングの小型UAV、スキャンイーグル、アイロボット社のUGV、パックボットを補正予算で調達した。これらの輸入代理店は双日だが、契約社はそれぞれ三菱重工と日立となっている。

 防衛省はこれらをライセンス生産するつもりなのだろう。また、同様に原発偵察に使用されたフジ・インバック社のUAV、B型も併せて調達された。つまり技本と既存の国内メーカーに対してイエローカードが出された結果となったのだ。

 某総合電機メーカーはフランス製のシステムに自社で作った筐体(きょうたい)を被せて、「国産兵器」として4倍の値段で納めている。果たしてこのような「国産兵器」が必要なのだろうか。

 対潜哨戒機P-3C用のソノブイはアクティブ、パッシブと2種類あり、ともに沖電気とNECが開発・生産しているが、能力が低い上に値段は米国製の数倍だ。このため海上自衛隊はリムパック(環太平洋合同演習)向けには米国製のソノブイを輸入して使用している。

 現在開発中の次期哨戒機P-1は、機体もエンジンもシステムも全部専用に開発されている。米国ですら機体、エンジンは旅客機737のものを流用しているのに、だ。このため調達単価、維持費用が極めて高くなっている。現用のP-3Cですら部品調達の予算が足りずに機体から部品をはがして共食い整備をしているのに、どうやって整備費を賄うのか。

陸上自衛隊富士学校で公開された量産型の10式戦車=2011年1月10日、筆者提供

 さらに、先ごろ量産型が公開された10式戦車はゲリラ・コマンドウ対策を謳っているが、実際は防衛大綱でも想定してない大規模機甲戦に特化した時代遅れの戦車だ。諸外国の戦車が非対称戦を主眼として防御力を最重視するなか、10式の防御力はおざなりで、火力と機動力を重視している冷戦型のレガシ-戦車だ。

 率直に申し上げて、我が国の兵器は戦争することを前提に

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