2012年04月06日
此度のミサイル発射予告は、北朝鮮政府にとっては、「対外関係の膠着」と「金正恩体制の確立」の二つを秤に掛けた政策対応であろう。
予告されたミサイル発射は、国連安保理決議一八七四(二〇〇九年六月十二日採択)に明確に違背する故に、それを明確に擁護する国々は、登場しそうにない。日本、米国、韓国の反応は、あらためて触れるまでもない。ロシアも中国も、具体的な政策対応が伴うかは不透明であるとはいえ、早々に懸念を表明するまでに至っている、北朝鮮政府の政策判断に「合理性」が伴っているのであれば、こうした周辺諸国の反応は、多分に織り込まれているであろう。
こうした対外関係の膠着を受け容れてまでも、北朝鮮政府がミサイル発射を予告したことには、二つの考慮が反映されていよう。
第一は、金正恩体制の確立に向けた道標としての意義である。此度の「地球観測衛星」打ち上げ計画は、金日成の生誕百年の節目に際しての祝賀事業の一環であり、金正日以来の「光明星」事業の継承である。金正恩が北朝鮮の「権力」を継承することの正統性は、彼が金日成と金正日の血脈に連なっているということの一事でしかない。
それ故にこそ、金正恩は、自らの権力基盤を確立していくためにも、金日成と金正日の血脈の意義を強調せざるを得ない。金日成以来、北朝鮮の統治体制は、共産主義体制と儒教倫理の複合という性格を帯びているのであれば、その儒教倫理の核としての「孝」の側面は無視できない。ニキータ・フルシチョフがソヴィエト共産主義体制下に「非スターリン化」を行ったのと同様の意味合いでは、金正恩が「非・金正日」化を断行できるとは考えにくい。
第二は、北朝鮮に対する制裁の手詰まりとも評すべき情勢である。既に様々な種類の制裁措置が発動されている段階では、軍事制裁の発動という域に踏み込むのでなければ、さらなる制裁を追加しても、その効果は限定されたものである。特に米韓両国は、机上の議論の上では軍事制裁発動を考慮できるかもしれないけれども、それは、対中関係への影響を考慮する限り到底、採り得ない選択肢であろう。
筆者は、金正恩体制に崩壊を含む劇的な変化が訪れるとすれば、それは、「三十八度線以南からの圧力」ではなく「鴨緑江以北からの圧力」の結果であろうと考えてきた。北朝鮮政府は、そうした事情を冷静に織り込んでいるのであろう。
しかしながら、その半面、
有料会員の方はログインページに進み、デジタル版のIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞社の言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください