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森本敏防衛大臣のどこが問題なのか?

薬師寺克行 東洋大学社会学部教授

 6月4日の内閣改造で防衛大臣に就任した森本敏氏に、与野党から「政治家でない人間が防衛大臣になることはおかしい」などという批判が出ている。私は森本氏を擁護する立場にはないが、これらはいずれも形式論的な指摘でしかなく、本質を突いた批判になっていないと言わざるを得ない。

 私が森本氏に初めて会ったのは1990年の秋、イラクがクウェートに侵攻した湾岸危機の後だった。国連安保理がイラクを非難し、米国中心の多国籍軍が編成されて湾岸地域に展開した。外務省は定期的に日本政府の対応や刻々と動く湾岸情勢について記者にブリーフをしていた。

会見する森本敏防衛相=2012年6月4日、首相官邸

 その時の説明役の一人が当時、外務省情報調査局企画課安全保障政策室長だった森本氏だった。外務省を担当していた私も説明を聞いた。おそらくは米国の偵察衛星などの情報を踏まえてだろうとみられるが、森本氏は湾岸地域の地図を指さしながら、イラクの共和国防衛軍(リパブリカン・ガード)の部隊がどの地域にどういう規模で配置され、これに対して多国籍軍側がどこにどういう部隊を展開しているかなどを詳細に説明してくれたことを覚えている。

 森本氏はすでに航空自衛隊を除隊し、外務省に入省していた。しかし、各国、各部隊の戦力の特徴や活動の意図、今後の展開予想などを淡々と、しかし説得力のあるデータとともに説明する森本氏の話しぶりは、なるほどこれが軍人かと思わせるものだった。

 その後、森本氏は外務省を退官し、都内の個人事務所で防衛省の背広組、制服組の幹部、自民党と民主党の国会議員、マスコミ関係者らを集めて定期的に勉強会を続けた。日米関係や中国情勢など時々の安全保障政策の問題について、情報や意見交換を目的とした極めて専門性の高い勉強会だった。自民、民主両党議員が参加していたように、森本氏の姿勢に政治的意図も偏りもなかった。そればかりか、現職の制服自衛官にとってこの勉強会のメンバーに呼ばれることは、一種の登竜門のように見られていた。防衛省における森本氏の存在感は当時から大きかったのだ。

 こうした経験から私は森本氏を、丹念に情報を集め、分析し、どう対応すべきかを冷静に考える、優秀な実務家タイプの戦略家だと見ていた。

 一方、自らが任命した防衛大臣が立て続けにその資質の欠如を露呈し、参議院で問責決議が可決されて更迭せざるを得なくなった野田佳彦首相にしてみれば、これ以上、人事の失敗を繰り返すわけにはいかない。自衛隊組織にも安全保障政策にも精通している森本氏は、これ以上ない「適材適所」だったろう。

 その森本氏の防衛大臣就任に対し、与野党からいくつかの批判がでている。まず、森本氏が政治家ではない点をとりあげて「有事の際に民間人に任せていいのか」、「政治家でない以上、政治的責任はとれない」という批判。つまり、「防衛省のような大事な役所は政治家が担当すべきだ」という意見だ。

 これは全く天に唾するような批判である。

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