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自衛隊の情報感度と特殊部隊(下)――情報収集と分析に金と人を投入せよ

清谷信一

清谷信一

 先の防衛大綱、そして現防衛大綱においても我が国が対処すべき脅威の優先順位は大規模な正面戦争ではなく、島嶼防衛や対ゲリラ・コマンドウ(特殊部隊)対処であると謳われている。これらの脅威に対処するためには、特殊部隊の人的、予算的増強が必要不可欠である。

 また前回述べたようにPKOや海外での情報収集にでも特殊部隊が多く活用されている。現在の軍事行動は特殊部隊の存在なくしてはあり得ない。

 だが、我が国では自衛隊も政治家もそれを認識していない。

 前回も紹介したヨルダンのSOFEX(Special Operations Forces Exhibition and Conferences)のような軍事見本市は、単にものを売り買いする場所ではない。その主催は実質的に国家や国防省であり、国家的なイベントである。

拡大中国のノリンコ社はSOFEXに最新の8輪装甲車VN1Aの実物を持ち込んだ=筆者提供

 このため軍事見本市は、多くの国の軍隊や政府関係者が訪れ、交流をする場所でもある。代表団を招いたレセプションが開かれたり、会場には代表団専用のラウンジが設けられ、公式、非公式に、主催国はもとより多くの国の軍関係者と関係を深めたり、情報を交換したりする場所となっている。

 このような見本市に代表団を送り込み、現地の特殊部隊と関係を深めれば、イランやイラク、シリアなど中東の問題を抱えた国々の事情はもちろん、自衛隊が部隊を派遣している南スーダンなどアフリカ諸国の情報収集も可能となる。

 いくら電子的な情報収集が盛んになっても、ヒューミント(人的)情報の収集は情報収集の基本であり、最も重要なソースであることには変わりがない。その基本は長期にわたる人的ネットワークの構築だ。

 ところが我が国ではそのような認識が欠けている。それ対して、いつも大規模な代表団を送り込んでいる中国の人民解放軍は正しい認識を持っていると言ってよいだろう。

拡大中国パビリオンを訪れたヨルダンのアブドラ国王(中央)=筆者提供

 アラブ諸国は尚武の気風が強い。マッチョが好きと言い換えてもいい。地域での国家の威信をかけた軍事見本市やコンファレンスなどに防衛省・自衛隊のデリゲーション(派遣団)がまったく顔を出さないというのでは、防衛省・自衛隊だけではなく、我が国の外交のプレゼンスは確実に低下する。

 SOFEXに関していえば、自衛隊は、実は8年前に陸将補を長とする小規模なデリゲーションを派遣している(しかも参加した陸将補は戦闘服だった。これは他に例がないはずだ)。

 当時イラクのサマーワに陸上自衛隊部隊の派遣を控えており、そのための情報収集が目的だった。ところがその後、自衛隊のデリゲーションは一度も訪れていない。

拡大中央即応集団の式典に参加した陸上自衛隊特殊作戦群の隊員=筆者提供

 困ったときは助けてくれ、でも普段の付き合いは金も暇もかかるから一切しないという不義理な人間は我が国でも信用されないが、義侠心の強いアラブ世界においてはなおさらだ。

 今回、SOFEXで恒例の特殊部隊の競技会では、ドイツの対テロ特殊部隊GSG9やオーストリアの対テロ部隊コブラなども初めて参加し、欧州の特殊部隊と交流を深めるよい機会だった。特殊作戦群が参加していれば、情報のパイプの構築、人民解放軍特殊部隊の実力を測ることも可能だったろう。対して、人民解放軍空軍の特殊部隊も参加していたからだ。

 前回の競技会ではサウジアラビアの特殊部隊が、ラペリングの途中で宙づりとなり、練度の低さを露呈したが、このようなことからも他の国の特殊部隊の技量を測ることもできる。実はこのような情報は軍事だけではなく、外交上も有用な情報だ。

 例えばパキスタンやサウジアラビアでハイジャック事件が発生して、邦人も人質となった場合、現在の我が国では、現地の部隊を信じて大丈夫なのかどうかという情報を我が国はまったくといっていいほど持ち合わせていない。

 だから、かつてペルーで日本大使公邸が占拠された事件では政府も外務省も慌てふためくことになった。このような情報の把握のためにも、特殊部隊同士の交流を含めることは必要だ。

 特殊部隊は通常の部隊と異なり、国籍を超えたギルド的な意識を持っている。このため特殊部隊同士で訓練を共にし、互いの戦術や装備の情報を交換することも多い。これによって情報やノウハウを蓄積し、より能力を高めるのだ。特に他国の部隊の実戦での経験を学ぶことは練度を上げるためには極めて有用だ。

 ところが我が国の特殊部隊は実質的に米国の特殊部隊としか交流がない。だが、米国の特殊部隊は人員も万単位、予算も巨額で、対等なパートナーとはなり得ないし、参考にもなりにくい。むしろその他の国々の特殊部隊と交流を深めるべきだ。

 むろん情報はギブ・アンド・テイクだ。一見の人間が都合のいいときだけ「情報をくれ」と頼んでも、もらえるものではない。我が国からもある程度の情報を他国の部隊に渡す必要がある。

 訓練にしても、自衛隊の特殊部隊はほとんど米特殊部隊や米国の民間軍事会社の施設でしか国外での訓練を行っていない。自衛隊の特殊部隊がこのように世界から孤立し、自閉的な状態が続くのであれば、「井の中の蛙」となり、実戦において優れた働きを期待することは難しいだろう。

 かつて石破茂氏が防衛大臣時代に「自衛隊は ・・・続きを読む
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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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