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民主党の失敗から学ぶ民主主義

鈴木崇弘 城西国際大学客員教授(政治学)

 小沢一郎氏ら衆参約50名(注1)の議員が、民主党に離党届を提出し、民主党は分裂した。そして7月11日夕、小沢氏は、消費増税に反対する新党「国民の生活が第一」を49名で旗揚げした。

 民主党への支持は日々低下し、同党への期待は雲散霧消してしまった感がある。民主党が政権交代を果たした2009年の高揚感の中、今日の民主党の現状を予想したものはほとんど皆無に近かったと思う。

 筆者は当時、自民党系のシンクタンクに籍があったが、政権交代は日本に必要だと信じていた。そのことは、自民党をはじめとした政党と日本の政治にいい影響があると考えていたからだ。

 しかし、民主党政権はその期待や思いを、残念ながら木端微塵に打ち砕いた。私は、民主党の議員の中にも、優秀で高い志を持っている議員が少なからずいることを知っている。そして、政権交代が、若干なりの成果を上げたことも知っている(注2)。だが、全体として考えた場合、民主党は政権交代に失敗したのだと思う(注3)。

 来るべき総選挙で民主党は、2009年の自民党のように惨敗すること(注4)が予想されているが、その前に民主党は、すでに政党としての体を次第に失ってきており、自壊している感がある。今後、民主党がリカバーし、次の選挙で過半数を得て政権を維持する可能性は潰えたといっても過言ではない。

 だが筆者は、本稿で、民主党の失敗、政権交代の失敗を批判したいのではない。それよりもむしろ、その失敗から何を学ぶべきかを考えたいのである。

 民主主義は、決まった形や理想があるのではなく、経験や過去から学び、絶えず改良し続けていかねばならない政治制度だ。民主主義が「未完の行進」と言われる所以だ。

 そして、最も重要なことは小沢新党がどうなるかということでもない。政治や政策の経験と失敗から学び、次にどう活かしていくかが最も重要なことだ。

 では、今回の失敗から何を学ぶべきなのか。次に、そのポイントを述べていきたい。なお、各ポイントは相互に連動しているものである。

1)政党組織の問題

 民主党は、「政権交代」をスローガンに集まった単なる個人の集まりだった。つまり、必ずしも組織としての体をなしていなかったということだ。だから、政権がうまくいかず、国民の支持が低下してくると、個人がバラバラに活動を始めてしまう。党員の国民も、党の活動に密接に関わっていないので、運営がうまくいかないと支持がすぐ低下してしまった。

 そして、党の組織力が弱いため、選挙になると、議員個人の力量と支持団体のサポートで闘うしかないのだ。そのため議員は 自分の再選をまず考えて、個人の行動やパフォーマンスを打ち出すようになり、国民や有権者の党への支持が減ると党批判を始め、政権(つまり代表である総理)への支持が減ると、すぐに代表を取り替えようとするのである(注5)。

2)代表の育成と選び方(注6)

 小選挙区制が実施されるようになり、従来の政党(特に自民党)の派閥の機能が低下した。これにより、中選挙区時代に人材の発掘および育成の機能をもっていた派閥は、その機能を完全に低下させてしまった。

 そして、そのような派閥の役割を代替できるような仕組みはまだつくられていない。その結果、党のリ―ダーや代表・総裁(トップ)を創出する機能や役割が失われた。つまり、小選挙区に即した、党のリーダーやトップを生み出し、育てていく仕組みが政党につくられていないのだ。これは、民主党も自民党も大差がない。

3)政党のガバナンス

 民主党は、政権獲得前から、政策における党と政権の一元化を標榜してきた。そこで、政権獲得後は、政策調査会(政調)を廃止し、党による事前承認もなくした。その結果、大臣・副大臣・政務官の政務三役として内閣に参加できなかった平議員には、出来レースである国会の審議以外に、党内で自分の意見を表明したり政策形成に影響を与えたりする場や機会が非常に限定されてしまった。そのため、多くの議員は、大きなフラストレーションを抱えた。

 その後、政調は復活したが、政調会長らの党執行部が中心に政策を決めているために、全所属議員が納得して党全体の総意を形成していく仕組みができていない。つまり、民主党は政権与党として、個々の所属議員・党・政権(内閣)が一体となる政党のガバナンスができていないのである。自民党の事前審査制や党と政権との二元的な政策形成を超えた、新しい社会状況に即した政党ガバナンスの構築が期待される。

4)政権運営の経験

 ある政党の幹部職員から聞いた話だが、

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