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【UH-X官製談合疑惑と日本のヘリメーカーの病巣(3)】 単価は妥当か?

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 これまで述べてきたように、陸上自衛隊は現用の小型汎用ヘリコプター、UH-1Jの後継としてUH-X(次期新多用途ヘリコプター)を開発中だ。UH-Xは150~180機ほどが調達される予定だ。ちなみに現在、陸自はUH-1Jおよび、より旧式のUH-1Hを合わせて約140機を保有している。

 UH-X開発の予算は平成22年度に承認された。その総額は279億円が予定され、平成23年度で35億円、平成24年度で183億円が承認された。本年3月には、川崎重工が提案したOH-1をベースに開発する案が、富士重工のUH-1の双発型案を破って採用された。調達単価は、現用のUH-1Jと同レベルの約12億円に抑えるとしている(UH-1Jの調達単価はおおむね約10~11億円)。

 なお生産に際しては約71億円の初度費が予定され、調達単価12億円には光学電子系センサーをはじめオンボードの装備品などは含まれていない。仮に調達単価が12億円に収まっても、初度費や搭載システムを加えれば実際の調達単価は20億円程度になるだろう。さらに、後述する事実上の専用エンジンであるXTS2の開発費を含めれば単価はさらに大きくなる。

 このUH-Xは極めて筋が悪い。UH-Xの開発は本来、平成20年度に要求されるはずだったが、3年間にわたって足踏みが続いた。これは陸上幕僚監部の計画が杜撰だったために内局が予算化を渋ったからだ。

 輸入やライセンス生産も一応は検討されたが、ユーロコプター(仏・独)やアグスタ・ウエストランド(伊・英)などの外国メーカーにおこなわせた提案は具体的なものではなく、形ばかりであり、まともな情報要求もおこなわれず、真剣に検討された様子はない。様々な状況証拠を積み上げると、UH-X計画は川重の提案するOH-1で初めから決まっていたように思える。

 単発のUH-1Jですら調達単価は約10~11億円だ。対してUH-Xはエンジンがふたつある双発だ。普通は双発のほうが高価になる。平均調達単価が約20億円のOH-1をベースにし、しかもエンジンは高価な専用エンジンを使用し、生産数はたかだか180機程度。これで単発機のUH-1J並みの単価が実現するとは考えにくい。

 エンジンはOH-1で採用された三菱重工製の出力659kwのTS1をベースに開発された出力940kwのXTS2が採用される予定だ。

 だが業界関係者によるとこのXTS2の開発は難航し、所定の性能がでていないという。その単価は約4億円になるというが、UH-Xは双発だからエンジンの価格は8億円となる。ならば機体は、調達単価の12億円から8億円を差し引き、4億円で生産するということになる。これは工学的にみれば不可能で、このエンジンを使う限り、機体単価は20億円を下らないだろう。

 XTS2開発が技術的に難航しているため、ロールス・ロイス社とハネウェル社の合弁企業であるLHTEC社が開発、生産するT800など外国製のエンジンを搭載する方向で検討が進められているという。つまり単価12億円という目標を掲げるのであれば、XTS2の採用は当初から外すべきだったのだ。

 エンジンをパワーアップするならば、当然ギア・ボックスなどを一新する必要がある。つまりOH-1のギア・ボックスをそのまま流用できない。防衛省技術研究本部の資料によるとTS1とXTS2の部品はある程度共用性があるとされているが、それは35パーセントに過ぎない。またローターやその周辺のコンポーネントも同様に共用できない。当然ながらキャビンにいたっては二人乗りのタンデム型と兵員や荷物を載せるキャビンがある汎用型では全く異なる。

 これではOH-1とスペア部品を共有してコストダウンすることは不可能だ。そもそもTS1自体が生産数も少なく外国製エンジンよりコストが高い。OH-1もたった34機で調達が停止されており、これとコンポーネントを共有しても量産効果は上がらない。

 米海兵隊のUH-1YとAH-1Zはキャビンを有する汎用ヘリとタンデム・シートの攻撃ヘリであるにもかかわらず、約85パーセントのパーツの共用化を実現しているが、それはエンジンやトランスミッションが共通だからだ。UH-1とUH-Xではそのような共通化は不可能だ。

 防衛省はUH-Xの調達単価が12億円を超える場合、調達は中止されるというが、これはかなり怪しい。12億円という単価は防衛省と川重が合意した毎年の調達ペースから著しく調達ペースが下がったり、物価が著しく上昇した場合には見直されるという。

 だが防衛省内局は筆者の取材に対して、その前提となる生産レートは公表できないと答えた。これではメディアは検証ができず、調達単価12億円は空手形と疑われても仕方あるまい。

 防衛省の計画は、米国のように開発費が25パーセントを超えると自動的に開発が中止になるとか、調達単価が一定額を超えた場合には調達が中止になる、といったシステムは存在しない。また開発費や調達コストが高騰した場合、調達数を例えば100機から80機に減らすという決まりもない。つまりUH-Xの価格上昇はなし崩し的に容認される可能性が高いのだ。

 かつてOH-1は当初の調達価格が7億円だったが、それが15億円となり、最高では24億円に高騰している。三菱重工が担当した空自向け救難機UH-60も同様に、当初22億円だった調達単価が後に約50~60億円に高騰している。

 UH-Xでも同様に当初は調達単価12億円で生産が承認され、その後20億円、30億円となっても調達が続いてしまう可能性が高い。これまでの「実績」を踏まえれば、調達価格が高騰する場合、毅然として調達プログラムを停止することは難しいだろう。

 陸幕は過去OH-1、AH-64Dなどヘリの調達が高いコストによって事実上途中で停止に追い込まれている。開発費や調達単価の上昇を防止するためには、数値による管理をおこなうべきだ。現状ではOH-1、AH-64D同様、予定数の数分の一しか調達できずに途中で調達を断念、そのうえ新たにコストをかけて後継機種を採用し、2機種を併用して高い運用コストを負担するはめになった。その負担は我々納税者が負うことになる。その轍を繰り返してはならない。

 かつて陸自には約500機のヘリがあったが、現在は約450機まで減少している。陸自ではこれを中期的には350機まで減少させるという。となるとその半分はUH-Xで占められることになる。削減されるヘリの多くは旧式化し、順次、用途廃止となる攻撃ヘリAH-1SやOH-6などとなる。陸幕ではAH-1SおよびAH-64Dの後継となる攻撃(あるいは戦闘)ヘリ、単機能の観測ヘリの調達は考えていないようだ。

 現在有力なのはUH-Xをベースに軽武装型を開発し、これを攻撃ヘリや観測ヘリの任務などに当てるというものだ。これは陸幕内ではARH(武装偵察ヘリ)と称されている。これが実現すれば量産化によって調達・運用コストの低減が可能であるとの目論見だろう。

 だがこれは現実的ではない。そもそも、これまで述べたようにUH-Xの調達・運用コストは極めて高くなることが予想される。また、偵察や火力支援ならば5トンクラスのUH-Xでは機体が大きすぎる。調達・運用コストは高くなるし、被弾の可能性も高くなる。小型ヘリで十分な任務に大型ヘリを使えばコストが高くなるのは自明の理であり、機体共用によるコスト削減効果は限定される。

 現在、米陸軍では旧式化が激しいOH-58カイオアウォーリアーの後継機、AAS(Armed Aerial Scout 武装航空偵察)ヘリを予定している。そのAASの本命と見られているのが、EADSノースアメリカが提案してAAS-72X+だ。これは米陸軍が採用したUH-70Aの武装型である。AAS-72X+は乗員2名で兵装は2800ポンド(1270kg)。2時間12分の航続時間を有し、さらに予備燃料で20分の航続が可能だ。UH-70Aの調達価格は民間ヘリの転用ということもあり、現地生産にもかかわらず5億円で、これはUH-Xの半額程度だ。

 米陸軍は来年度の予算でAASの開発費として7900万ドル(約64億円)を計上する。我が国でUH-Xをベースに武装ヘリを開発するのであれば、少なくとも同等の金額がかかるだろう。ARHの調達機数はせいぜい数十機だろう。当然一機あたりの開発コストが高くなる。

 そもそもUH-1の後継が5トン程度のヘリで良かったのか疑問が残る。乗員数が同じであれば、光学電子装備、増加装甲や自己防御システムはUH-1Jよりも重たくなる。また他国の例を見れば、搭乗する歩兵の装備は増え、より重たくなる傾向にある。単なるUH-1Jの買い替えではなく、より大きな機体、あるいは小さな機体で定員を少なくし、機数を増やすなど運用を根本的に見直すべきだった。

 UH-Xが5トンに落ち着いたのは、OH-1をベースにすればその程度の大きさが限界だったからという話も陸自やヘリ業界関係者から漏れ伝わってくる。

 筆者が内局に取材した限り、

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