メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

もう一つのUH-X疑惑――空自次期救難機を巡る疑問(上)

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 9月に陸上自衛隊のUH―X(次期多用途ヘリコプター)開発をめぐって、防衛省側と川崎重工側が「結託」して、仕様書などを競合する富士重工に対して不利なものとするなど、本命である川崎重工に著しく有利としたとして検察が告発した。

 これに対して防衛省は、技術研究本部に所属していた、2佐、3佐ら数人を東京地検特捜部に刑事告発した。だが、このような工作が一部の幹部だけが共謀しておこなったとは考えにくい。また捜査が入ったのは言わば「出城」である技術研究本部だけであり、本丸である陸上幕僚監部装備部および航空機課に捜査のメスは入っていない。これは組織的な関与を隠蔽するための人身御供としか思えない。

 実は防衛省の調達では競合入札が形骸化しており、本命メーカーが仕様書を書くことが恒常化しているのは、関係者の間では公然の秘密である。

 防衛省で大幅に競争入札を導入したのは守屋武昌次官のスキャンダル以後におこなわれた調達改革によるものだ。その結果、本来、随時契約が適しているものまで一律に競争入札にしてしまった。

 防衛省・自衛隊はどうせ「形だけの入札」をすればいいだろうと考えていたのに違いない。だから競争入札を受け入れた。それがUH-Xの件で明るみになった。

 実際問題として防衛省の調達担当者の数は英仏独などよりも一ケタ少ない。これではまともに調達できるはずがない。また装備に関する情報収集も他国より大幅に劣っている。技本の2008年の海外視察費は92万円であり、筆者の海外取材費よりも少ない。これは守屋事件以後もたいして変わっていない。このような組織的欠陥を放置して改革できるはずもない。

 UH-X同様、「はじめに結論ありき」の「形だけの競争入札」の疑いのあるプログラムは少なくない。組織的な調達システムに欠陥がある。

 防衛省では陸自のUH―Xの他に、もう一つUH-Xプログラムが存在した。それは航空自衛隊の現用のUH-60J救難ヘリの後継機選定だ。これは三菱重工が現用のUH-60Jの改良型、川崎重工がアグスタ・ウエストランドのAW101をライセンス国産するKE101(海自はAW101を掃海・輸送へり、MCH-101として採用している)、ユーロコプターはEC725の輸入及びノックダウンを提案していた。

 2010年に本命である三菱重工が提案したUH-60Jの改良型が選定された。防衛省の内部資料「航空自衛隊の次期救難救助機の機種決定について」に「UH-60J(近代化)は航空自衛隊の次期救難救助機として必要な要求事項を全て満足しており、また、経費についても妥当性を有するものであった」としている。

 だが、選定の結果には大きな疑問が残る。

・・・ログインして読む
(残り:約1944文字/本文:約3058文字)