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【次期輸送機XC-2と自衛隊の川崎重工への偏愛について(上)】――緊急性はあるのか?

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 防衛省は昨年、東日本大震災の復興のための第3次補正予算で輸送機を調達した。航空自衛隊用として現用のC-1輸送機の後継である次期輸送機、XC-2を2機、250億円、海上自衛隊は現用のYS-11の後継として米海軍の中古のC-130Rを6機、150億円で調達した。

次期輸送機XC-2の民間型模型=撮影・筆者

 筆者はこの件を、補正予算の使い方としては邪道であると、昨年来報道してきた。東京新聞はなぜか10月になってこの件を報道した。だが、なぜ予算が要求された時に多くのメディア、特に防衛省記者クラブの記者が記事を書かなかったのか不思議に思える。東京新聞の件の記事は「新聞」ではなく、「旧聞」である。今さら報道するならば、独自の解説でも加えるべきだったろう。

 これらの輸送機が調達されたのは、震災で既存の輸送機が酷使されたことが理由だったとされている。同じ航空機の調達でも、被災した機体の再調達であれば理解できるが、これらの輸送機はいずれも更新が予定されており、震災復興予算で調達することに筆者は強い違和感を覚える。また飛行回数でいえば、より機体を酷使されたのはヘリコプターであるが、なぜヘリコプターは補正予算で調達されなかったのだろうか。

 震災を理由に防衛関連以外の予算で輸送機を調達するべきではない。第3次補正予算の輸送機調達費用、合わせて約400億円は、本来、学校などの耐震強化、被災者の再就職の斡旋、事業を再建する業者への融資などに充てるべきだ。実際未だに予算不足が災いして、復興が遅れている分野が多いことは今さら筆者が指摘するまでもあるまい。

 率直に申し上げて、この金を予定していた航空機の調達に当てることは合理性が低く、被災者の生き血を啜(すす)るかのような所行であり、犯罪行為に近いとさえいえる。少なくとも筆者はそのように考える。少しでも良心をもっていればこのような予算要求はできないだろう。

 それでも海自のC-130Rはまだ合理性がないわけではない。中古で値段も安く、またデリバリーまでの期間も短い。また現在使用しているYS-11とは異なり、機体後部にランプドアがあるので、貨物の積み卸しが容易であり、車輛なども運べる。

 また未舗装の滑走路でも短距離で離着陸ができる。実際、被災直後の仙台空港では、米軍のC-130が着陸を強行して物資などを輸送した。このため、近い将来に起こる可能性が高いと言われている次の震災に備えるためだ、とのいいわけも何とか通じよう。

 問題は空自のXC-2だ。Xと頭につくことから分かるように、この機体は川崎重工が主契約社で開発されているが、未だ実用化されていない。にもかかわらず、空自は平成23年度予算で2機、374億円、平成23年度第3次補正予算で2機、250億円、第3次補正予算とほぼ同時期に要求された平成24度予算で2機、329億円が認められ、都合6機のXC-2の調達がこれまでに決定している。

 平成23年度/2機374億円/調達単価187億円

 平成23年度補正予算/2機250億円/調達単価125億円

 平成24年度/2機329億円/調達単価164億5164・5億円

 平成25年度概算要求/要求無し

 これには疑問がいくつかある。なぜ同じ時期に要求された平成24年度防衛予算と、第3次補正予算で調達単価が大きく異なるのか。二つ目はなぜ平成25年度概算要求ではXC-2の調達要求が行われていないか、ということである。

 前者は調達単価の算出の妥当性が疑われ、後者に関しては本来25年度に要求すべき機体を第3次補正予算で要求したのではないか、との疑いが生じる。

 開発が終わっていないのになぜ量産品が発注されたのだろうか。

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