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陸上自衛隊に島嶼防衛はできない(下)――海上自衛隊は「海兵隊」をつくれ

清谷信一 軍事ジャーナリスト

 陸上幕僚監部は水陸両用戦能力の確保の一環として、運用試験用としてBAEシステムズ社が製造し、米海兵隊や多くの軍隊が使用している水陸両用装甲車AAV7を来年度の予算で4輛要求している。AAV7は戦闘重量が約26トン、乗員は3名と下車歩兵を25名収容できる巨大な装甲車で、水上を時速13キロで航行できる。

拡大AAV7=提供・米海兵隊

 これまで陸上自衛隊はサンプルを調達することなく、はじめから国産ありきで開発や調達をおこなうことが多かった。このようにサンプルを調達し評価するようになったのは一歩前進であり、一定の評価に値する。だがそれでもコストや時間的制約には無頓着であり、当事者意識に欠けている。

 実は陸幕は当初、ユニバーサル造船や三菱重工など国内メーカーにこのような装甲車をつくらせようとした。ユニバーサル造船は4輪の「94式水際地雷敷設装置」を元に試作までおこなったが、とても水陸両用戦に耐える代物ではなかった。何しろ「94式水際地雷敷設装置」同様に4輪であり、水際機動性はないに等しい。

 「94式水際地雷敷設装置」は砂浜ですら自力で揚陸できない。砂浜に鉄板を敷き詰め、ウインチで陸上から牽引してもらう必要がある。これを元にした車輛では、実戦では使い物にならないだろう。そこでAAV7を試験的に調達することとなったのである。

 そもそも、せいぜい数十輛しか必要ない装甲車、しかもメーカーに全く経験のない水陸両用装甲車を開発させれば開発費を含めた調達コストは極めて高価となるのは子供でも分かる道理だ。

 佐藤正久参議院議員(自民党)は水陸両用装甲車の国産を支持しているが、国内メーカーにはこのような車輛を開発するノウハウも乏しく、現実には不可能だ。しかも開発から始めるために、調達まで時間がかかる。陸幕はこの国産開発に期待していたが、そのぶん時間を空費した。何でもかんでも国産という発想は捨てるべきだ。

 島嶼防衛は焦眉の急である。ところが陸幕には「時間」という概念がないようだ。極めてのんびりと構えている。AAV7の試験調達にも大きな問題がある。陸幕は当初部内でも米海兵隊の中古で済ませようという話があったのに、これを新品で調達しようとしている。

 調達の緊急性とコストを考えれば、米海兵隊の余剰品を購入、あるいはリースすれば済む話だ。

 新品の調達となれば来年度に予算を要求し、米国のBAEシステムの子会社でこれから製造される。このためデリバリーは2015年になると予想されている。

 その後、試験が開始され、その結果、調達が決定されるとしても予算要求は早くても2016年度ないし17年度になる。これまた新品を発注するのであれば製造に時間がかかり、最初のロットが納入されるのが20年度ぐらいになるだろう。

 ある程度の数が揃い、IOC(初期作戦能力)が確保されるのは恐らく22~24年度ぐらいにはなるだろう。つまり何とか戦力化されるのは10年後、仮に数十輛が調達されるとして、これまでの装甲車輛の調達ペースから鑑みるに、調達が完了し完全に戦力化されるのはさらに10年後、つまり都合20年ほどかかるだろう。

 陸自首脳部には、中国の人民解放軍がこちらの装備が充実するまで軍事行動を待ってくれるという確信でもあるのだろうか。なんとものんびりしている。危機感が完全に麻痺ないし、欠如している。

 米海兵隊は現在、既存のAAV7に近代化を施す計画がある。このため陸自が現在の米海兵隊仕様のAAV7を調達してもすぐに旧式化することになる。かといって、米海兵隊の新型が登場するのを待っていれば、いたずらに時間を空費する。

 時間を節約するために、先に述べたように米海兵隊の余剰品を整備し、現在の海兵隊仕様に合わせたものの中古品を調達するなり、リースするなりすべきだ。

 これなら納入までの時間も費用も大きく節約できる。採用が決定したならば初期調達分は米海兵隊の中古で賄い、中期以降の調達分を新造すればいいだろう。そうすれば戦力化までの時間が大幅に節約できるし、費用もこれまた大幅に節約できる。米海兵隊が新型に移行すればそれに合わせて近代化を施せばよい。

 何でも新品がよいと駄々を捏(こ)ねるのでは子供と同じだ。そもそも金がなくて諸外国の軍隊では支給するのが当たり前のセーターすら支給していない陸自に、そのような「冗費」を出す余裕はないはずだ。

 外国では実際に米海兵隊の中古を活用している。ブラジル海兵隊は現在26輛の中古のAAV7を運用しているが、さらに26輛を米海兵隊の中古から調達する。エンジンなどは新型に換装され、仕様も海兵隊の現用と同様となる。さらにその次のバッチの26車輛は新造品を調達することになる。同様のことができないのであれば、それは陸幕が組織としてあまりに硬直化・官僚化しているからだ。官僚化した軍隊が戦争に弱いのは前の戦争でも明らかだ。

 予算には上限があり、島嶼防衛には「相手」が存在し、時間的な余裕はない。水陸両用戦のための装備の試験、調達は焦眉の急であり、装備調達費は右肩下がりだ。陸自はその予算的な制限と時間的制限が理解できないか、あるいは理解していても新品にこだわり、新装備調達という手段を目的化しているとしか思えない。つまり戦争が起こることを前提としての調達ではない。ある意味、非常に平和的である。

 水陸両用装甲車のサンプル購入がAAV7だけというのも問題だ。これではプランB、代案プランの策定が困難だ。候補が一つしかなければ仮にAAV7が陸自の運用に合っていなくとも他に候補を検討していなければ、事実上AAV7を導入せざるを得なくなる。硬直化した陸幕ではメンツと財務省への言い訳が優先されるので、せっかく試験導入したAAV7を採用しないわけにはいかなくなるだろう。

 となれば、必要がなくとも調達されることになり、部隊に配備される。例によって導入された装備に合わせてどう運用するかが捻(ひね)り出される。

 不必要な装備は予算の無駄遣いだけではなく、戦力を大きく減じることになる。言わば利敵行為とすら言える。

 仮に陸自がAAV7を採用するにしても、水陸両用部隊の全てがAAV7でいいというものではない。AAV7は水上航行能力は高いが、陸上に上がった場合、巨大なうえに装甲がさほど厚いわけでもなく、機動力が低く陸上戦闘では不利である。またリーフの踏破性に疑問を持つ声もある。

 筆者はBAEシステムズ社の元海兵隊将校でAAV7の担当者に話を聞いたが、 ・・・続きを読む
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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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