メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

既存の左右対立を超えて前に――平和のためのイノベーションを

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

 前稿「アベノミクスと『ダモクレスの剣』――『経済再生』という夢想の後に待ち受けるもの(2013/01/07)」で述べたように、その後、やはり安倍政権は参議院選挙までは経済再生に集中する「賢明」な作戦をとった。

 そして、アベノミクスは今のところ、少なくとも短期的には手応えがあるように思われており、その「巧妙」な作戦の滑り出しは好調であるように見える。こうなると、参議院選挙で安倍自民党が勝利を収める可能性を真剣に考慮して、議論をする必要が増大してくる。

 この場合、参議院選挙後に安倍政権は、一転して、安倍首相の悲願である改憲や国防軍創設などに代表される国粋主義的公約を実現することを狙う可能性が高い。歴史問題や領土問題についても国家主義的な政策を明確にし、中国などとの緊張がさらに激化するかもしれない。まさに、「ダモクレスの剣」が落ちてくるのである。

 それを嫌う人びと、たとえば平和憲法を守ることを真剣に望んでいる平和主義者や護憲派の人びとは参議院選挙の前にも、必死に批判し選挙で死力を尽くしてこのような事態の危険性を訴えるだろうし、そうすべきだろう。けれども、その努力にもかかわらず、このような事態が実現する可能性を念頭に置いておく必要があると思われるのである。

 今でもこのような状況が生じていることを充分に理解していない人が多いので、そのような努力は極めて貴重である。しかし、従来の平和運動だけでは全体の状況を大きく変えることは困難と思われるのである。さらに、そういった平和・脱原発志向の人びとがいわゆる護憲政党・左翼政党だけを支持するという姿勢をとっていると、その広がりはさらに限定されることになるだろう。

 そもそも、かつての平和運動はマルクス主義などの左翼的イデオロギーの影響が強かったので、今日の多くの人びとからは敬遠されがちである。さらに社会党系の運動と共産党系の運動との対立は、平和を重視する人びとを分裂させ、護憲運動や平和志向政党の勢いを削いできた。このためもあって影響力が後退し、今のような平和憲法の危機が生じていても、こういった分裂や対立が克服されて、大きな統一的運動が形成されたという話は、寡聞にして聞かない。これでは、危機を克服するようなダイナミックな展開は生まれようがないだろう。

 だから、かつてのような運動はこのような問題を温存してしまうことにつながってしまいかねない。これは、平和憲法をはじめとする平和的な政治の擁護というような目的にとっては自滅的な道なので、従来の運動を超える新しい流れを形成することが必要である。

 経済界では、何十年も同じスタイルで経営を続けていては、経済環境の変化とともに倒産してしまいかねない。だから、時代の変化に必死に対応して、危機が生じれば必死に形態を変化させて生き延び、発展させようとする。イノベ-ション(革新)に成功した企業こそ、継続的に発展することができるのである。同じように、平和運動にも大きなイノベーションが必要なのではないだろうか?

 だから、既存の平和運動や平和を目指す政党は今からでも「小異」を尊重しつつも「大同」につき、大きな結集を目指すべきであろう。筆者はこれを「平和への結集」と呼んでいる。これは護憲政党の問題と関連する大きな問題であり、いずれ稿を新たにして論じてみたい。

 また、脱原発のための官邸前デモが新しいスタイルのデモとして注目を集めたように、既存の運動とは離れたところから、新しい流れを発展させていくことも必要だろう。もし参議院選挙で自民党の勝利を阻止することを最大の目標にするならば、今から新しい運動の姿を考えてもなかなか間に合わないだろうから、時間の無駄ということにもなりかねない。

 けれども、改憲などに焦点を合わせるならば、参議院選挙までの期間はいわば助走期間ということになり、その後が最大の山場ということになるだろうから、新しい流れを創造していくこともまた必要である。

 脱原発のデモを手がかりにして考えてみよう。もしこのデモが従来の左翼勢力が主導する旧来のスタイルのものだったら、決して「紫陽花革命」のような盛り上がりは生まれなかっただろう。従来の運動に関わりの無かった多くの人びとが、イデオロギーと関係なく、ある意味で生き生きと楽しく、気軽に参加することができるものだったからこそ、多くの人びとが初めて「デモ」に参加したのである。

 ここに1つの道がある。果たして、従来の左翼運動や護憲・平和運動とは異なった形で、憲法問題や平和問題を真剣に考える人びとが、新しい流れを作っていくことは可能だろうか? 実は、このような問題提起は、すでにイラク戦争における自衛隊派遣問題においてもなされているが、筆者はこのことを改めて考えていく必要があると思っている。

 そのために最も必要なのは、 ・・・続きを読む
(残り:約2046文字/本文:約4033文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
デモクラシーやJournalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

小林正弥の新着記事

もっと見る