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消費されていく国会議員たち――落選者はいま

薬師寺克行 東洋大学社会学部教授

■収入源の乏しい落選者

 2012年12月の総選挙で落選した百数十人の民主党の元議員らが苦境に陥っているそうだ。

 落選者の大半は今も選挙区に事務所を構え、数人の秘書を雇い、地域の様々な会合に顔を出すなどの政治活動を続けている。異口同音に次期総選挙での再起を目指し地道な活動を続けると訴えているようだが、彼らの置かれている状況の苦しさは並大抵のものではない。

 最大の問題は「収入」である。選挙に落ちればもちろん無職。支持者の経営する企業などにでも就職すれば安定的な収入は得られるが、政治家を目指すことを放棄したとみなされ、支持者は離れていく。苦しいことを覚悟で選挙区内の中心都市の目立つ場所に事務所を借りて、数人の秘書を雇い、政治活動を続けなければならない。

 そのために必要な諸経費は毎月最低でも50~60万円になるという。さらに民主党の場合、落選者の多くは30代から40代で子育て真っ最中の世代だ。数年後の総選挙で当選する保証も何もない中で、生活費や教育費などがずっしりと重くのしかかる。

 落選者は民主党にとっては貴重な人的資源である。党は毎月50万円の政治活動費を支給している。一部の有望な落選者にはこのほかに毎月20万円の生活費の支援も出されているともいう。

 それだけではとても足りるわけがない。再び議員を目指そうというのであるから、必要な資金は企業や個人から政治献金などを集めるくらいの甲斐性があって当たり前かもしれないが、今の日本ではそう簡単なことではない。民主党関係者に聞くと「この先どうなるか分からないような落選者に気前よく献金して入れる企業や支持者はほとんどいない」そうだ。

 総選挙から3カ月余りたち、こうした苦境は次第に重くのしかかってき始めた。ところが党本部からは夏の参院選に向けて積極的に活動を続けるよう求められている。このまま政治活動を続けるべきか、事務所を畳んで企業への就職など転身をはかるべきか、悩みはますます深くなっているそうだ。

 既に報じられているだけでも、数人の落選者が離党して別の党から夏の参院選や市長選挙への立候補を決めた。これはほんの一部でしかない。参院選が一つの区切りとなって転身する落選者が相次ぐかもしれない。

 小選挙区制導入以後、総選挙のたびに生まれる大量の落選者をどう守っていくかは民主党だけでなく自民党にとっても大きな問題だった。2009年の総選挙で大量の落選者を出したが、党の支部長に再選されると年間750万円の活動費を支給した。自民党の場合、地方議員が多いことや個人後援会が強いことなど民主党より多少は条件がいいようだ。それでも厳しい点に変わりはない。

■小選挙区制度が生み出す大量の落選者

 落選者の転身など地味な話かもしれないが、国政にとっては大きな問題だ。衆院選挙に小選挙区比例代表並立制が導入されて以降、現職議員の当選率が急激に低下している。

 総務省の統計を見ると、中選挙区制時代の総選挙での当選者に占める「新人」「前議員」「元議員」の比率は政界が流動的だった1940年代を除き、「新人」はだいたい10%台、「前議員」は70~80%台となっていた。それが自民党単独政権末期の1990年、1993年の総選挙で「新人」は26%台に増え、「前議員」は60%台に落ちた。小選挙区制が導入されてからは「新人」は20%台が続いていたが、民主党への政権交代が実現した2009年は32.9%(「前議員」は55.4%)、2012年の総選挙は小選挙区を見ると「新人」は31%、逆に「現職」は47.3%と半数を割った。

 つまり政権交代が起きるなど政界が流動化した結果、新人が多く当選し、その裏返しとして無職になる議員が増えているのだ。同時に2005年以降の3回の総選挙はいずれも何らかの「政治的ブーム」が巻き起こり、有権者の投票行動が一つの方向に大きくスウィングし与党が300議席から100議席余りに大敗する結果が続いている。それが「小泉チルドレン」「小沢チルドレン」などを生み出した。こうした現象が政界に様々な問題を生み出している。

 まず、新人があふれかえった結果、議会や内閣で人材不足が生じている。2012年の場合、自民党の新顔当選者は119人で、全当選者の4割を占める。当選2回の議員を合わせると半数を超える。国会議員の職務は国政の運営であり、質の高い政策の企画立案や円滑な利害調整と意思決定には、それなりの経験と知識が不可欠である。議会には適度な新陳代謝は必要だが、同時に議員として一定期間教育を受け、経験を積んだのちに役職に就くことが求められる。従って過度の新人議員誕生は、そうしたメカニズムを機能しにくくしてしまう。

 また、選挙がそのときの空気で大きく左右され現職当選率が下がることが続けば、若手議員の議会や党での言動が選挙至上主義、当選至上主義になってしまう可能性が高い。少しでも選挙に有利になるよう、選挙区や支持者に歓迎される政策だけに力を入れる。あるいは議会活動そっちのけで選挙区に張り付き恒常的な選挙活動をするかもしれない。

 さらに極端な場合は、

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