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「池口恵観・朝鮮総連中央本部落札事件」の深層

小北清人 朝日新聞湘南支局長

 まったくもって、いまだに奇妙、かつ不透明な「事件」です。

 「富士見城、ついに落城か」と注目されてきた朝鮮総連中央本部ビル(東京都千代田区富士見)。その土地・建物の競売入札が東京地裁によって行われ、3月26日、宗教法人「最福寺」(鹿児島市)が45億1900万円の最高価で落札しました。東京地裁は資格審査の結果、同29日、「問題なし」と許可しました。

 最福寺が4月末までに全額を地裁に振り込めば、土地・建物の所有権は朝鮮総連から最福寺に移転することになります。

池口恵観法主=鹿児島市平川町の最福寺、小池寛木撮影

 最福寺の池口恵観法主(ほっす)(76)は、日本で指折りの「親北人士」です。これまで5回訪朝、故金日成(キム・イルソン)主席を模して作った仏像を北の当局にプレゼントしたこともある人物です。

 地裁が最福寺への売却を許可した29日夕、池口氏が口にしたのは、しかし、「代表的親北人士」にしては奇妙な言葉でした。

 「朝鮮総連を支えるつもりはない。総連には基本的に出て行ってもらうことになる。日本政府の許可が下りれば、次の行先が決まるまで、貸すこともあるが」

 日本国政府が許さないなら、「総連には立ち退いてもらうしかない」と池口氏は言っているのです。

 ところが、その3日前、(4者が参加した入札で)最高価で落札したことがわかった26日の会見では、

 「総連から依頼があれば、貸すことも検討する」

 と彼は発言していました。

 「総連に貸す」(26日)から、「政府が認めないなら立ち退いてもらう」(29日)に、発言の中身が変わったわけです。

 この間、何があったのか。

 こんな話を事情に詳しい人物から聞きました。

 「28日、警察当局が池口氏の関係先にガサ入れに入る構えを見せた。宗教法人の脱税容疑がらみだった可能性がある。この方針は安倍晋三総理にも知らされた。総理は前向きだったという。ところが、小泉政権時代の有力者で朝鮮総連とも近い人物がそれを聞き強硬に反対、検察筋にも働きかけ、結局、ガサ入れは見送られた」

 警察の動きは池口氏の耳にも入ったとみられます。池口氏はこの時点で、「ビルの所有が誰になろうと、総連が引き続きあのビルにとどまることに安倍総理は強い不満を持っている」と悟り、相当なプレッシャーを感じたようです。それが翌日の、「政府が認めない限り、総連には立ち退いてもらう」発言につながったと考えられます。

 安倍総理は池口氏と面識があります。父の故・安倍晋太郎元外相存命の時代から、父の病気や自身の腸の持病(いまは新薬で症状が劇的に改善)の治療のことで、最福寺とつながりができたようです。池口氏は元右翼活動家で、その人脈は元有名プロ野球選手から政治家、右翼、極左関係者までと多岐にわたり、いまの「信徒総代」は大物政治家一族の閣僚経験者だといいます。

 「10年に一度の大物次官」と呼ばれた勝栄次郎・前財務次官の面倒を若いころから長年みて、勝氏が「いまも頭が上がらない」人物も、信徒の中に、いるそうです。

 「資金は、総連中央本部ビルや最福寺関連不動産を担保に銀行からの融資でまかなう。総連が出ていくことが融資の条件になっている」

 29日、池口氏はこう口にしました。もしこれが事実なら、総連が退去しないかぎり担保設定ができないことになる。もしかすると、彼は26日の落札時点では、

 「安倍さんさえ総連の入居を受け入れてくれれば、銀行の融資条件など細かいことなど何とでもなる」

 と楽観していたのかもしれません。

 では、安倍総理はどの時点で、池口氏の入札意思を知ったのか。

 「少なくとも入札以前の、さほど遠くない時期に、最福寺と関わりを持つ政界関係者が総理の耳に入れたとの情報がある。だが総理は半信半疑だったようだ」(関係者)

 であれば、池口氏は入札前の時点で、「安倍総理は総連への賃貸を了解してくれただろう」と単純に信じ込んでいたこともあり得ます。

 右翼の世界ではよく知られていることですが、池口氏は

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