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LGBTと、共に生きる社会へ

村木真紀

■LGBTとメディア

 2012年から、LGBTという言葉をメディアで見かける機会が増えてきた(注:LGBTは、ゲイ、レズビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字。LGBT以外にも様々なアイデンティティをもつ性的マイノリティが存在する。人口の約5%程度だと言われている)。

 私は当事者として15年あまりLGBTの運動に関わってきたが、これほどLGBTのニュースが頻繁に流れるのは初めての経験であり、歴史の大きな転換点にいるのではないかと感じている。

 主要なニュースを概観してみよう。

 一つ目のキーワードは「同性婚」だ。

 2012年、アメリカの大統領選挙で、オバマ氏が歴代の大統領として初めて同性婚を支持することを表明した。共和党とその支持基盤であるキリスト教保守派が同性婚を認めていないため、これは大統領選挙の大きな争点となり、日本でも大きく報道された。そしてオバマ氏は選挙に勝ち、感動的な就任演説が行われた。

 「ゲイの同胞の平等が達成されるまで、私たちの旅は終わらない」

 同性愛者の権利について、公民権運動の大きな流れの中に位置づけた演説だった。日本のテレビのニュースではほとんど省略されていたのが残念であったが、私はこの一言を聞きたくてインターネットで中継を観ていた。画面に立ち上げていたTwitterやFacebookで、日本全国、世界各地のLGBTの友人達と喜びを分かち合うことができた。

 同性間のパートナーシップを法的に保障する流れは、世界的な潮流になっている。2013年に入ってからだけでも、3カ国、ウルグアイ、フランス、ニュージーランドで、同性婚法案が承認された。これで同性婚を認める国は世界で14カ国になる。

 二つ目のキーワードは「LGBT市場」。

 収入が多く、子どもがいないことが多い、主に安定した仕事を持つゲイ男性を、新しい富裕層としてターゲットにしたマーケティング戦略のことである。電通総研は日本でのLGBT市場は5.7兆円だと試算し、経済誌が特集を組み、ビジネス関連の番組でもその内容が紹介された。この言葉によって、初めてLGBTに関心を持った層も多いと聞いている。

 三つ目のキーワードは「ディズニー」。

 これは東京のディズニーランドで初めて同性同士の結婚式が行われたというニュースである。新聞やテレビで大きく報道されたため、耳にした方も多いのではないだろうか。友人の女性同士のカップルが2013年3月、ディズニーシーにあるホテルで人前婚を執り行った。

 日本では同性間のパートナーシップの法的保障はなにもなく、今も二人は法的には配偶者ではないが、結婚式を行うことはできる。白いウェディングドレス姿の二人が、家族や友人に囲まれて祝福される姿は、日本でも同性同士のカップルが現実にいるのだという驚きで多くの人に受け止められた。ちなみに、米オーランドのディズニーワールドの社長ジョージ・カログリディス(George Kalogridis)はゲイであることを公表しており、ディズニーはLGBTフレンドリーな企業として知られている。

■東京レインボーウィーク

 このように、LGBTという言葉をメディアで頻繁に見かけるようになってきた流れの中、今、東京では今年初めての試みとして、「東京レインボーウィーク」と称するイベントが行われている。

 レインボー(虹色)は、性の多様性を祝福する意味があるとして世界中で使われているLGBTのシンボルである。4月27日から5月6日までの10日間、様々なLGBT関連のイベントが行われる。

 パレード、映画祭など、従来からあったLGBTイベントに加えて、教育、医療、職場などについて、LGBTの目線から考える企画が実施されている。コミュニティカフェや市民大学もあり、誰でも参加できる催しも多いので、是非、興味のある企画をのぞいてみて欲しい。

沿道に手を振りながら歩く「LGBT」パレード=2013年4月28日、東京都渋谷区

 4月28日に行われた「東京レインボープライド2013」というイベントには、渋谷を歩くパレードに2千人が参加し、代々木公園を使ったお祭りには1万2千の人が訪れた。作家の乙武洋匡氏や国会議員、地方議員も一緒にパレードを歩き、野宮真貴氏、中村中氏のライブが会場を盛り上げた。

 私がこのウィークで特に素晴らしいと思うのは、LGBT当事者と当事者「以外の」人々が、様々な分野で出会い、一緒に活動する企画が多いことだ。パレードの後を掃除するグリーンバードなど、他の分野のNPO、著名人(陸上の為末大氏が一緒に都内を走る企画がある)、アメリカを始めとする各国の大使館、グーグルやIBMなどの企業など、ウィークのホームページに並ぶこれらの名前を目にするだけで、心強く感じる当事者も多いだろう。

 私が主催している虹色ダイバーシティというグループもこのウィークに参加しており、5月3日にLGBT当事者向けの職場環境に関するアンケート調査の結果を発表するイベントを開催する。普段は、企業向けにLGBTの勉強会を行っているため、このイベントには企業の人事、ダイバーシティ、CSR関係者も数多く参加する予定である。

 LGBTに関して、日本における最大の課題は「無関心」だと言われることがある。自分の身の回りにはカミングアウトしているLGBTがいないため、海外のこと、テレビの中のこととしか感じられないという人が多いと、そんな風に説明される。

 しかし、私は今回のウィークに参加して、その常識が少しずつ変わってきたと感じている。日本各地で、様々な分野で、LGBTとそうでない人たちとの接点が増えてきた。当事者でない人たちが、オバマ大統領のように、LGBTの友人や家族のために、積極的にLGBTの権利を支援すると表明し始めている。この勇敢な人たちこそが、日本の非当事者の「無関心」を変える力になるのではないかと感じている。

■LGBTと、共に生きる社会とは

 日本のLGBTの法的状況に関しては、同性愛は違法ではなく、性同一性障害の性別変更も条件付きで可能である(性別変更の要件が厳しすぎるとして、改正を求める声がある)。一方で、学校や職場や地域での差別を禁止する法律はなく、同性パートナーの法的保障も全くない状況である。

 こうした法律が日本でも議論されるようになるには、私は、LGBTに関する知識と共感を広げる必要があると考えている。しかし、知識だけでも、共感だけでも、足りない。顔の見える身近な誰かの、生活に関する具体的な困難を解決するために、知識と共感をもって人は動くのだ。

 LGBTと共に生きる社会をつくるために、私は二つの軸が大切だと考えている。

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