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憲政・白熱教室と民主主義――理想的な「改憲」のための必要条件

小林正弥 千葉大学大学院人文社会科学研究科教授(政治学)

■憲政・白熱教室

 前稿「憲政とは何か?――イデオロギーを超えて、これからの『憲法』の話をしよう」(2013/05/03)の趣旨に即して、尾崎行雄記念財団主催「咢堂塾」特別企画として、4月20日に「憲政・白熱教室」が行われ、筆者はその議論を進行させた。

 「今年は、尾崎行雄が陣頭に立った憲政擁護運動からちょうど100年にあたります。憲法改正が現実味を帯びてきた今、改めて、憲法と政治、これからの日本について、一緒に考えていきましょう」というのがその趣旨である。

 もちろん、「白熱教室」という名称は、マイケル・サンデルのハーバード白熱教室に由来するが、実は「憲政」という概念もサンデルと関係がある。実は、筆者が監訳したサンデルの『民主政の不満――公共哲学を求めるアメリカ』(勁草書房、上・下、2010年)の第1部(邦訳では上巻)は「手続き的共和国の憲法」と題されており、アメリカの憲法(解釈)と政治の関係を扱っている。だからこれは、アメリカの憲政論とも言えるのである。

 そして、サンデルはこの書物で共和主義の復興を主張しており、共和主義的な思想では、人びとが公共的に議論して主権の行使として憲法を変化させることも民主主義の表れとして理解することが多いのである。

 この白熱教室については、NHK総合テレビの憲法記念日特集「憲法改正を問う」(5月3日、午前9時20分から)でも、人々の間で始まった憲法についての議論として、少し映像が放映された。そこで、その様子を簡単に紹介してみよう。

■「民主主義的」改憲支持論

 主催側によると、幸い、予想より多くの人数が集まったので部屋を大きな部屋に変更したそうである。まず、私は第1部で資料を配布して、「憲政」の概念とこの白熱教室の趣旨を説明し(注)、休憩をはさんで、第2部でいよいよ憲政・白熱教室を開始した。

 資料として、自民党の改憲草案(現行憲法との対照付き、自民党HPより)と日本維新の会の綱領(平成25年3月30日)を配布し、まず、このような改憲に賛成か反対かを聞いた。これには反対の人の方が多かったが、賛成の人も相当おり、双方のバランスがとれていたので、私は安堵した。白熱教室では、意見が分かれていないと、議論が「白熱」しにくいからである。そこで、それぞれの意見の理由を聞くところから、議論をスタートさせた。

 印象的だったのは、はじめに2、3人、若い人が、民主主義の活性化になるから改憲を支持するという趣旨の発言をしたことだった。自分たちの手で憲法を作ってみたいという気持ちが表れている。実は、私の大学で対話型講義を行って憲法問題を議論する場合にも、このような意見は必ず出てくる。

 これは護憲論者の見落としがちなところだと思う。護憲論者は、たいてい、復古調の改憲案を念頭に置いているから、その内容に反対するあまり、なぜ改憲論が近年は多くの人の心を捉えているのかを必ずしも十分に捉えていないように思われる。戦争直後の改憲論なら、確かに反民主主義的なムードが強かったかもしれない。けれども、今の若い人は、しばしば民主主義的な心情で改憲に期待することがあるのである。

 もちろん、これらに対して、人権や平和主義の観点から反論する人もいた。人権擁護と民主主義との関係は、「自由主義と民主主義」という政治哲学におけるテーマに直結する大問題である。

 さらに、これは自民党憲法改正案全体についてだけではなく、現在の焦点である96条改正案についても関係している。現行憲法のような規定だと憲法の改正は困難だから、しばしば国民主権によって憲法が改正できるように、憲法改正条項を変更した方がいい、というのである。ちょうどパソコンのソフトのように、頻繁にバージョン・アップしていくのがよいから、このような改憲を支持するという意見もあった。

 憲法の重要性に鑑みて、このような意見はナイーブ過ぎるという意見を抱く人も多いだろう。人権を重視するリベラリストにも、民主主義の暴走を心配する人が多いだろう。ここでは、このような「民主主義」の当否は論じない。けれども、改憲論に懸念を抱く人々も、若い人たちの感覚の中にこのような「民主主義的」改憲論に共鳴するところがあることは知っておいた方がよいだろう。

■新旧二つの改憲論における「民主主義」と「憲政」

 ただ、改憲自体を支持するからといって、自民党の改憲草案を支持するとは限らない。現に、会場では、改憲派の中でも自民党草案を支持する人は少なかった。しかし、現実政治においては、与党の中軸をなす自民党の案は実現する可能性があるわけだから、この草案の支持者にもその理由を十分に述べてもらった。

 その論理を簡単にまとめると、“大日本帝国憲法も当時においては優れた先進的憲法だったが、現在の憲法は占領下で作られた憲法だから、今こそ自分たちの手で憲法を改正する必要がある。日本には聖徳太子の17条憲法以来の伝統があるのだから、この国柄に即した憲法を作るべきである。そして、憲法を改正する権力こそ、民主主義の最大の主権の発現だから、これを行使すべきである”ということになる。

 この意見に対しては、歴史認識の問題や憲法認識の問題をめぐって反論が出された。現行憲法作成にあたっては、日本の民間憲法草案が影響を与えたことや帝国議会での審議が行われたことをはじめ、戦後の新憲法作成のプロセスについての歴史的経緯なども指摘された。このような改憲論が、自民党の改憲論の主流なのだから、この応酬は、憲法論議においてまさになされるべきものがなされた、と言えよう。

 ただ、注目に値するのは、このような自主憲法制定論においてすら、 ・・・続きを読む
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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院人文社会科学研究科教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

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