2013年04月27日
「信念が薄れていくにつれ、みせかけの憎悪の対象を広げていった。労働者やユダヤ人やフランス人を罵倒するだけでなく、カトリックとローマ教会をも痛罵した。」(ヨーゼフ・ロート作、池内紀訳「蜘蛛の巣」『聖なる酔っぱらいの伝説他四篇』所収、岩波文庫、2013年、67-68頁)
上の文章はナチス台頭前夜の1923年にユダヤ系オーストリア人作家のヨーゼフ・ロートが当時の状況を描写した小説の一節である。
ロートはのちに迫害を受け亡命を余儀なくされた。ロートが表現するところの「みせかけの憎悪」、すなわち、さしたる考えもなく軽い気持ちでの人種差別を入り口にしてさまざまな差別の「蜘蛛の巣」へと人々を絡め取っていく現象が、徐々に現在の日本でも広がりを見せつつある。
この数年来、日本ではインターネット内にくすぶっていた差別主義者らが路上の現実間に出て目立つようになった。人種や国籍、ジェンダーなど特定の属性を有する集団や個人をおとしめたり、差別や暴力行為をあおったりする言動であるヘイトスピーチをあたり構わずわめき散らすデモや、「右翼」の名を借りた行政・企業・個人への脅迫はその過激さを増しつつある。
なぜ、近年ヘイトスピーチと排外主義がデモという形を借りて、リアルな空間に登場してきたのか。こうした草の根からふくれあがった差別主義者の集団化に対して、わたしたちの社会はどう向き合い、是正していけばよいのだろうか。
差別主義者による路上でのヘイトスピーチの横行は何も今に始まったことではない。2009年の子どもたちを狙った京都朝鮮学校への嫌がらせや、2011年の水平社博物館前差別街宣事件、韓流に偏向しているとしフジテレビやスポンサー企業の花王に対し行われた抗議デモ、竹島問題が一般に顕在化した2012年にテレビCMでキム・テヒを起用したロート製薬本社に脅迫をし、逮捕者も出た事件など、枚挙にいとまがない。
2013年に入ってからはさらに勢いづいた。象徴的だったのは今年2月9日以降の新大久保での差別主義者らによる外国人排撃デモ参加者が掲げていた「良い韓国人も 悪い韓国人も どちらも殺せ」「朝鮮人ハ皆殺シ」という殺人教唆を指示する内容のプラカードであろう。
デモの最中も「殺せ、殺せ、朝鮮人」などと奇声を発し、路上から沿道のコリアンタウンを行き交う人々に罵声を浴びせたほか、さらに3月24日の大阪・御堂筋のデモでは「朝鮮人の女はレイプしてもいい」という犯罪教唆の暴言まで飛び出すようになった。
けだし、反社会的であり、こうした暴言がまかり通る危機の時代を再び迎えつつある。
だが匿名性の空間であるネットとリアルを区別できず、現実の社会でも顔をマスクで被うなどして素性がばれないよう工夫をした上で群れになって大勢でヘイトスピーチを行う者たちが、近年、路上に多く出現するようになった。
通常、街中で1人ないし少数の人間たちが差別発言やレイプ容認発言、そして何よりも「殺せ、殺せ」などと公言すれば周囲から注意のみならず、警察にも通報される。くわえて正義感の強い心ある人々と、物理的に衝突することも覚悟せねばならないだろう。
だが、たとえネット上以外では一人で何もできない差別主義者たちも、ひとたびデモ申請をして集団になれば気が大きくなり、警官隊に守られて安全な場所から「デモ」の形を悪用して好き放題にヘイトスピーチを叫び散らすことが出来るのである。
2011年の東日本大震災をひとつの契機として一連の脱原発デモなどが巻き起こり、日本も「デモが出来る社会」の復活を遂げて、デモ行為が日常の風景になった。とまれ、この「デモが出来る社会」への変化は、なにも良識ある市民たちのみに開かれているわけでない。
これまでは既存の右翼団体のマネをして情宣を主たる活動としてきた差別主義者たちは、今日ではデモという手段を逆手にとり、警察に護衛されて大勢で群れ、反社会的な主張をウェブ上ではなく路上でも行うようになった。むろん、参加者の大半がその反社会性を理解しているからであろう、顔を隠して匿名性を担保しなければ参加出来ないことは変わりないのだが。わたしたちの社会では、こういう輩を「卑怯者」という。
この差別主義者によるデモの形を借りた公共の場でのヘイトスピーチの横行を煽動している中心が――在日特権を許さない市民の会――通称、在特会という団体だ。これまでの伝統的な保守や右翼のような主張はなく、信念の薄いただの差別主義者団体である。同会の設立は2007年であり、歴史は浅い。とまれ「行動する保守」としてネット上動画投稿サイトや掲示板を中心に加入者が増えており、会員数は1万人以上と裾野が広い。
彼らはインターネットの生放送等で視聴者に差別を娯楽として提供し、映像を消費させ寄付を募る手法をとっている。いうならば彼らの情宣やデモは
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