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改憲可能なジャスト3分の2という選挙結果

 参議院選挙の結果を、あなたはどう見ているだろうか? 与党支持の人は喜んでいるだろうが、野党支持の人々や特に護憲派の人々は与党大勝という事態を憂慮しているに違いない。

 筆者は、2012年末の総選挙直後に、参議院選挙は剣ヶ峰であり、その結果次第ではいわば「ダモクレスの剣」(天井から髪の毛1本で剣が吊り下げられていて危険な状態を表す。<注>参照)が落ちてきて、「改憲」などにより「国家体制」の変革が生じる危険性があると指摘し、参議院選挙直前に、「参議院選挙前日(7月20日)を国民的な『ネット熟議の日』にしよう――『ダモクレスの剣』は落ちるか否か」(WEBRONZA7月18日)で、この警告を繰り返した。

 そこでは、与党が過半数を占めるのは確実だが、問題は参議院選挙で改憲を志向する政党が3分の2の162議席に到達するかどうかであると論じ、選挙予想を参考にして、「自民党+維新の会+みんなの党」だと143議席、「与党+維新の会+みんなの党」だとまさに162議席ちょうどになる、と述べた。

 筆者自身も驚いたことに、参議院選挙の結果は、「自民党+維新の会+みんなの党」は142議席、「与党+維新の会+みんなの党」だとまさに162議席ちょうどだった。前者は1議席少ないだけだし、後者は寸分狂わなかったわけで、この結果には自分でも唖然としている。

 そして、まさに参議院でも改憲の発議が可能な3分の2ちょうどに到達したことには呆然とせざるをえなかった。様々なメディアは事前にはこのことについてほとんど指摘していなかったが、選挙結果が出るとさすがにすぐに報道した。

<注>ダモクレスの剣とは、「シラクサの王ディオニシオスの廷臣ダモクレスが王位の幸福をほめそやしたところ、王が彼を天井から髪の毛1本で剣をつるした王座に座らせて、王者の身辺には常に危険があることを悟らせたという故事」に由来し、「栄華の中にも危険が迫っていること」をいう(デジタル大辞泉)。

公明党が握る生殺与奪の権

 それでは、これによって、「ダモクレスの剣」は落ちたのだろうか? その答えはイエスでもあるし、ノーでもある。

 筆者がかねて指摘してきたように、今後は3年間大きな国政選挙なしに与党は政治を運営することができる。その間に大きなことができるし、上記の4政党が合意できれば改憲の発議も可能となるから、改憲による国家体制の変革という安倍晋三首相の悲願にも実現可能性が現れたわけである。これを見れば、まさに「ダモクレスの剣」は落ちてしまった、と言わざるを得ない。

 ただ、護憲主義者たちの心情を慮(おもんぱか)って言えば、今回の選挙結果は、衆議院選挙直後の状況から見ると、最悪とまでは言えない。

 まず重要なのは、日本維新の会が今回は8議席の当選にとどまり、参議院では合計9議席にとどまったことである。

 今回の当選議席は、筆者から見るとだいたい予想通りの伸びにとどまった共産党(「都議選における共産党『躍進』と参院選における『夢想』ーー左右分極化は回避できるか?」参照 WEBRONZA7月9日)の8議席や、さほどの伸びではなかったみんなの党の8議席と同じであり、参議院では第6党にとどまった。衆議院選挙の結果と比較すると、従軍慰安婦などについての橋下発言の影響などでその党勢が早くも衰えたことは明らかである。

 この意味は大きい。極右的要素を含んだ政党の伸びが止まったということは、民主政からみれば健全なことだし、「自民党+維新の会」が主導して憲法改正を行うという可能性は極めて少なくなった。維新の会は、衆議院選挙後に自分が中心になって改憲勢力を糾合して勝利することを目指したが、この野望はひとまずは潰えたわけである。

 この結果、参議院で3分の2を確保するためには、現時点では「与党+維新の会+みんなの党」というように、公明党とみんなの党の合意が必要になった。橋下発言以後、みんなの党は維新の会から距離を置いているし、公明党は改憲には慎重姿勢を堅持している。だから、「ダモクレスの剣」はまだ完全に人々の頭上に落下してきてはいない。

 これをたとえて表現してみよう。天井から剣は落下したかの如く見えて、恐怖のあまり目を閉じたが、数秒たっても実際には頭を貫いてはいない。こわごわ目を開けてみると、落ちたかのように見えた剣は、途中で止まっているのである。

 どうしてであろうか?  ・・・続きを読む
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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院人文社会科学研究科教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

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