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パレスチナとの交渉を再開したネタニヤフの真意

高橋和夫 放送大学教養学部教授(国際政治)

 2010年から2年以上も中断されていたパレスチナ暫定自治政府とイスラエルの間の中東和平交渉が再開された。今後9ヶ月の交渉で、この問題の最終的な決着を目指そうという野心的な計画である。

 なぜ交渉が再開されたのだろうか。表面的には、もちろんアメリカのケリー国務長官の仲介努力の成果である。実際には、これまで交渉再開を拒否してきたパレスチナ側が、なぜ翻意したのだろうか。イスラエルによるヨルダン川西岸地区での入植活動の停止を交渉再開の前提としてきたパレスチナ側を説得したのは、イスラエルが拘束しているパレスチナ人の一部の釈放であった。

 現在イスラエルは5千人に近いパレスチナ人を拘束している。今回は、そのうちでも長期間にわたって拘束している104人の釈放を発表した。拘束されているパレスチナ人の家族からの強い要請もあり、パレスチナ暫定自治政府のアッバス議長は、交渉の再開に応じたようだ。

 それでは、なぜイスラエルのネタニヤフ首相は、パレスチナ人の釈放という不人気な決断をしてまで交渉の再開を望んだのだろうか。この104人の中にはイスラエル人の殺害に関与した者も含まれており、釈放に対しては犠牲者の家族を筆頭に激しい反対がある。

 ネタニヤフの判断に関しては、二つの見方がある。ゆっくり時間をかけて交渉し、そして交渉を失敗させる。そして、その間は交渉をしているとの名目で国際社会からの批判をかわしつつ、さらにヨルダン川西岸での入植を進める。104人のパレスチナ人を4回に分けて釈放するとイスラエルが発表しているのは、時間稼ぎのためである。釈放が終わるまでは、パレスチナ側が交渉を決裂させることはないだろう。

 これによってネタニヤフは9ヶ月の時間を稼いだ。1週間先は「長期」と言われる中東である。9ヶ月は無限の次くらいに長い時間である。したがって交渉からは、何も期待できない。

 もう一つの解釈によれば、ネタニヤフは戦略的な決断を下した。その背景には二つの理由がある。

 一つは入植の続行により、パレスチナ国家の樹立による和平がだんだんと不可能になりつつあることだ。しかし、西岸のパレスチナ人をイスラエルに抱え込んでしまえば、イスラエルがユダヤ人国家ではなくなってしまう。

 現在パレスチナ全体ではユダヤ人は少数派に転落している。イスラエルの総人口は800万であるが、そのうちユダヤ人は600万である。残りの200万はユダヤ人ではない。イスラエルの成立時に逃げ出さなかったパレスチナ人と子孫たちである。これに占領地のパレスチナ人を加えると、パレスチナ人の数は、既にユダヤ人を上回っている。しかもパレスチナ人の方がユダヤ人よりも子供が多いので、日々ユダヤ人のマイノリティー化が進行している。

 このままではイスラエルはパレスチナ人国家になってしまう。パレスチナ人を抱え込んだままでユダヤ人支配を続けようとすれば、それはかつての南アフリカのようなアパルトヘイト(人種隔離)国家になってしまうしかない。ユダヤ人国家として民主主義を守るためには、占領地とパレスチナ人をイスラエルから切り離すしかない。この現実に、やっとネタニヤフが目覚めた。そのため今回はネタニヤフが真剣になっているのである。

 第二の根拠は、 ・・・続きを読む
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筆者

高橋和夫

高橋和夫(たかはし・かずお) 放送大学教養学部教授(国際政治)

北九州市出身、放送大学教養学部教授(中東研究、国際政治)。1974年、大阪外国語大学ペルシャ語科卒。1976年、米コロンビア大学大学院国際関係論修士課程修了。クウェート大学客員研究員などを経て現職。著書に『アラブとイスラエル』(講談社)、『現代の国際政治』(放送大学教育振興会)、『アメリカとパレスチナ問題』(角川書店)など多数。ツイッター https://twitter.com/kazuotakahashi ブログhttp://ameblo.jp/t-kazuo 

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