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陸自の救急セットでは、自衛隊員の命を救えない

清谷信一

 陸上自衛隊は平成24年度予算で、東日本大震災の影響もあり、個人携行救急品(ファースト・エイド・キット)の整備に着手した。だが実はこれには国内用(通常用)と国外用(国際用)が存在し、国内用には国外用に入っているいくつかの装備がない。以下に国内用と国外用のセット内容を紹介する。

国際用……救急品袋、救急品袋(砂漠迷彩)、救急包帯、止血帯、人工呼吸用シート、手袋、ハサミ、止血剤、チェストシール
通常用……救急品袋、救急品袋(白色)、救急包帯、止血帯

 つまり、国内用には人工呼吸用シート、手袋、ハサミ、止血剤、チェストシールなどが入っていない。ちなみにチェストシールとは深部銃創・切傷に対応し、創傷の救急閉塞に用いるものだ。

 筆者はこの件に関して、7月11日の防衛省の記者会見で君塚栄治陸上幕僚長に、この違いは何故なのか、医師法などの規制によるものなのか等と質問し、即答ができないとのことで、8月、陸幕広報室を通じて回答を得た。

 自衛隊の衛生は戦時でも医師法など通常の法律に縛られ、諸外国の衛生兵に当たる看護陸曹は看護師などと同じ扱いであり、諸外国の衛生兵と異なり、医官(医師)の指示がなければ、原則投薬、注射、縫合などの手術すらできない。

 また有事法ができるまでは野戦病院があっても病院法によって開設できなかった。このように、筆者が医師法の規制を疑ったのは、自衛隊の衛生に対して他国では考えられないような異常な規制がまかり通っているからだ。

 しかし陸幕からの回答は、国内用と国外用の違いは医師法の規制によるものではない、とのことだった。

 国内用が簡素化されているのは、「国内における隊員負傷後、野戦病院などに後送されるまでに必要な応急処置を、医学的知識がなく、判断力や体力が低下した負傷者自らが実施することを踏まえ、救命上、絶対不可欠なものに限定して選定」した、とのことだ。

 対して「国外用は、国内に比し、後送する病院や医療レベルも不十分である可能性が高いため、各種負傷に際し、自らが措置できるための品目を、国内入れ組に追加して選定」した、とのことだった。

 だがこれは極めて現実を見ていない判断だ。 ・・・続きを読む
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筆者

清谷信一

清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家。1962年生まれ。東海大学工学部卒業。03~08年まで英国の軍事誌Jane's Defence Weekly日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関、Kanwa Informtion Center上級顧問。日本ペンクラブ会員。著書に『専守防衛─日本を支配する幻想』『防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『自衛隊、そして日本の非常識』『ル・オタク フランスおたく物語』、共著に『軍事を知らずして平和を語るな』『アメリカの落日―「戦争と正義」の正体』『すぐわかる国防学』など。最新刊に『国防の死角――わが国は「有事」を想定しているか』。

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