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「東アジア文化都市」の挑戦 ~創造都市がつなぐ日・中・韓~

川村陶子 川村陶子(成蹊大学文学部准教授)

 防空識別圏や領土の問題をはじめ、安全保障や外交における日本と中国、韓国の緊張が高まるこの頃であるが、文化の分野では3国間に新しい交流と連携の可能性が芽生えている。2014年1月にスタートする「東アジア文化都市」だ。

 「東アジア文化都市」は、日中韓文化大臣会合の決定に基づき、3か国において文化芸術の力を活かして発展する都市を毎年選定し、さまざまな文化事業を実施するプロジェクトである。東アジア域内の相互理解と連帯感の形成を促進するとともに、多様な文化の国際発信力を強化すること、各都市が文化的特徴を活かして継続的に発展することを目的としている。

 2013年9月の第5回日中韓文化大臣会合において、横浜市(日本)、光州市(韓国)、泉州市(中国)の3市が、2014年「東アジア文化都市」として公表された。2015年以降は、日中韓3か国の中から毎年1都市を選定し、持ち回りで開催していく予定である。

 横浜市は、12月11日、アイドルグループ「でんぱ組.inc」を広報親善大使に任命し、ウェブ上に特設サイトも開設した。オープニングイベントは2014年2〜3月の予定で、具体的な事業として舞台芸術作品の共同制作や、文化・創造都市の国際会議などを企画中であるという。

 プロジェクトは、日本政府の発案とイニシアティブによって進んできた。2010年5月に鳩山由紀夫首相(当時)が「東アジア芸術創造都市」という名称で構想を発表し、2011年1月の第3回日中韓文化大臣会合で近藤誠一文化庁長官(当時)が中国・韓国に提案、その後2012年5月の第4回日中韓文化大臣会合において、2014年からの開催が正式に決定した。

 この間、3国では政権や指導部が交代し、領土問題などをめぐる国家間の軍事的・政治的緊張も高まったが、関係者によると文化大臣会合は終始よい雰囲気で、文化都市事業に関しても積極的に推進していこうとの流れであったという。

 「東アジア文化都市」は、EUで約30年前から行われている「欧州文化首都」に範をとったものである。欧州文化首都は、経済統合が停滞していたEC(欧州共同体)を活性化させようと、ギリシャのメリナ・メルクーリ文化大臣が1983年に提案し、85年にアテネを第1回開催都市として始まった。以来、名称や形態に修正を加えつつ、欧州の「文化的多様性」と「ヨーロッパとしての共通性」の促進を中心的な目的として、現在までに約50都市で開催されている。

 開始当初は各国の首都や大都市を舞台にした文化フェスティバルであったが、1990年代以降は地方都市の立候補が増え、地域の経済的・文化的発展の契機としても活用されてきた。たとえば英国のグラスゴー(1990年)は、欧州文化首都というブランドをてことして、古い産業都市をアートプロジェクトを通して活性化させており、文化資源を活かして発展する創造都市の好例として注目されている(ちなみに、第1回東アジア文化都市となった横浜市は、創造都市を開発コンセプトとして日本でいち早く取り入れた都市である)。

 このように、「欧州文化首都」は、ヨーロッパという「地域」の冠をつけた国際文化事業を通して域内の創造都市を育て、市民レベルからの国際関係改善を推進してきた。「東アジア文化都市」は、そうしたヨーロッパの経験を日中韓でも活かそうとする試みである。

 現実的に見れば、両者の間には共通点よりも相違点の方がはるかに多い。

 1980年代のヨーロッパでは、曲がりなりにも約20年の歴史を持つ地域共同体が先行しており、「欧州文化首都」以外にも、教育やメディアなどの領域で、「市民のヨーロッパ」の実現を目指し、多種多様な事業が継続的に打ち出された。今日の日中韓では、地域共同体の先行はおろか、外交関係も国民間の相互感情も険悪さを増すばかりである。

 「東アジア文化首都」は、そのような荒波の中で、ばらばらになりそうな3国を文化事業によってつなごうとする、単発のささやかな試みにすぎない。

 予算規模も、1985年の第1回欧州文化首都(アテネ)の運営予算が約770万ユーロ(1ユーロ=130円換算で約10億100万円)、最近の成功例といわれるエッセン(2010年、ドイツ)のそれが4800万ユーロ(約62億4000万円)であったのに対して、平成25年度の横浜市「創造都市国際交流事業」予算は2500万円、文化庁「東アジア文化交流推進プロジェクト事業」予算は1億2100万円(後者は「東アジア文化都市」、「東アジア共生会議」の2事業予算の合計額)。平成25年度予算が文化都市事業の最初の3か月間しかカバーしないことを考慮しても、文字通り桁違いである。

 二つの地域では、文化政策の基盤をなす、文化と政治の関係についての考え方も異なる。 ・・・続きを読む
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筆者

川村陶子

川村陶子(かわむら・ようこ) 川村陶子(成蹊大学文学部准教授)

成蹊大学文学部准教授。1998年、東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学(国際関係論)。国際関係における文化・文化交流に関心を持ち、対外文化政策や国際交流活動、〈ひと〉の視点でみた国際関係をテーマに研究教育活動を行っている。共著に『日本の国際政治学』(有斐閣、2009年)など。

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