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韓国軍への弾薬提供――食い違う日韓の言い分、様々な疑問

谷田邦一 ジャーナリスト、シンクタンク研究員

 「国連活動だけど、これって武力行使の一体化にあたるかも」
 「従来の憲法解釈をあっさり乗り越えたってことかな」
 「さすが安倍政権。韓国をダシに解釈を修正したってことかな」

 クリスマスイブの夜。東京都内であった自衛隊の若手将官らの忘年会は、日本が南スーダンで韓国軍に弾薬を提供するという時ならぬ話題で盛り上がった。将官らの大半が、政府は要請を断ると思っていたからだ。国連平和維持活動(PKO)の現場とはいえ、自衛隊が海外で初めて他国軍に弾薬を提供するという予想外の出来事をどう理解すればいいのか、さまざまな議論が交わされたという。

 幹部自衛官ならずとも、この問題を理解するのは難しい。日本固有の複雑な憲法解釈や武器輸出方針の両方にまたがる問題だからだ。政府の判断は正しかったのか、それとも疑義が残るのか。まずはおさらいから始めて整理してみよう。

 安倍政権は2013年12月23日、部族間の戦闘が拡大し内戦の危機にある南スーダンのPKOで、国連南スーダン派遣団(UNMISS)の要請を受け入れ、自衛隊の小銃弾1万発を韓国軍に無償で譲渡することを決めた。

 1.5万人の避難民を宿営地に受け入れていた韓国軍の展開地・ジョングレイ州では、政府軍と反政府武装勢力の攻防が激化。宿営地近くにまで迫撃砲の攻撃が及んでいたとされる。UNMISSの参加国のうち、韓国軍と同じ5.56ミリ小銃弾を使っているのは自衛隊だけ。政府は発足したばかりの国家安全保障会議(日本版NSC)を開いて「韓国軍や避難民の生命・身体を保護するため一刻を争う」と判断し、持ち回り閣議で決定した。

 1992年にできたPKO協力法は、PKOや国際緊急援助活動では「物資協力を行うことができる」(25条)と規定している。また弾薬の第3国への提供は法令上、「武器輸出」にあたるため、政府は官房長官談話を発表。「UNMISS以外への移転を厳しく制限する」との条件をつけ武器輸出3原則の「例外措置」として提供を認めた。

 例外措置を認めたケースは過去にもあるが、それらは相手国政府との2カ国関係で事前の周到な取り決めが前提となっていた。今回のような国際機関を通じた第3国への提供は初ケースになる。

 一見、法令や慣例に則り適正に処理されたように映る。ところがあいまいな部分が多く、野党各党の反発は根強い。PKO協力法25条の内容をめぐり、政府は98年に「国際機関から武器弾薬の供与を要請されることは想定していない」「物資の中に武器弾薬は含まれない」などと答弁していたことが大きい。今回、安倍政権は「(25条は)武器弾薬の提供を排除していない」と解釈し、過去の答弁との食い違いに言及しないまま押し切った形になる。

 政府は判断を変えた理由を国会や国民に十分に説明しなかった。安倍政権が下した決定プロセスは、こう責められても仕方がない。時の政権による法令の解釈が過去の国会答弁にどこまで縛られるのか、あるいは事情によっては縛られないのか。1月24日に開会する通常国会での論戦のポイントの1つになるだろう。

 大事なポイントは少なくともあと2つある。1つは、武器輸出3原則に照らし合わせてどうだったのか。もう1つは、

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