2014年07月31日
解釈改憲のはらむ問題性を端的に示すのが、徴兵制導入をめぐる議論である。平和派だけではなく、加藤紘一元自民党幹事長が共産党の機関誌『赤旗』(5月18日)のインタビューで、集団的自衛権行使容認は「徴兵制まで行き着きかねない。戦闘すると承知して自衛隊に入っている人ばかりではない」と述べたことが話題になった。
同じように、野中広務元自民党幹事長などの自民党の長老や現役議員の村上誠一郎元行革担当相までもが、集団的自衛権行使容認は徴兵制導入につながりかねないという危惧を表明している。
このように、徴兵制の導入が必要になるという議論は「徴兵制導入必要論」と呼ぶことにしよう。
実際に、徴兵制の可能性は巷の話題になっている。テレビ(「報道ステーション」)では自衛隊幹部が匿名で「すでに辞めたいと言っている若い自衛官もいます。隊員募集にも響くことになる。そうなったら徴兵制ですよね」と語ったという。
新聞(「沖縄タイムス」)では、集団的自衛権行使容認によって自衛隊が「軍隊」化することを危惧して辞職した元自衛官のインタビュー(7月14日)が掲載された。メディアやネットでは自衛隊OBたちが、自衛隊の役割はあくまでも日本を守ることであるとして集団的自衛権行使に反対する声も、伝えられている 。
そして、官邸前で閣議決定に対して行われた数千人という大規模デモには、これまでとは異なって20代や30代の若者の姿が多かったと報道された。これは、実際の自分たちの生命に危機が及ぶという危機感が、若い世代にも広がり始めているからであろう。
ちょうど閣議決定のあった7月1日に、AKB48の島崎遙香を起用した自衛官募集のテレビCMが始まったり、全国の高校3年生の自宅に募集のダイレクトメールが届いたりした。時期は偶然の一致かもしれないが、高校生達の間でも「招集令状っぽいのが来た」というやりとりがネット上で行われているという。
そこで、これまで政治にあまり関心を持たなかった若い人たち、特に母親たちにも、徴兵制が導入されて子どもが招集されることを心配し始めている人がいる。中には、英語教育をしたり海外に避難することができるように準備を整えたり、政治的な関心を持って情報や意見を発信したりする人もいる、という(『AERA』NO.31、7月21日号)。
このような懸念に対して、自民党や政府側は、憲法で徴兵制は禁止されているからそのような危険はない、と答えている。たとえば内閣官房のサイトでは、集団的自衛権行使容認や徴兵制への懸念に答えるQ&Aが掲載された。
「徴兵制が採用され、若者が戦地へと送られるのではないか?」という「問い15」に、「全くの誤解です。例えば、憲法第18条で『何人も(中略)その意に反する苦役に服させられない』と定められているなど、徴兵制は憲法上認められません」と回答して否定している。事実、安倍首相も、2013年5月15日の参議院予算委員会で、憲法18条を例示しながら「徴兵制度については認められない」と答弁している。
しかし、そもそも、集団的自衛権行使が可能になるように、憲法の大原理を閣議決定で変えてしまおうとしているわけだから、この反論には明らかに説得力がない。
内閣官房のサイトには、続けて憲法解釈による徴兵制導入の可能性について(問い16)、「徴兵制は、平時であると有事であるとを問わず、憲法第13条(個人の尊重・幸福追求等)、第18条(苦役からの自由等)などの規定の趣旨から見て許容されるものではなく、解釈変更の余地はありません」と答えているが、事実上これは前の問いに対する答えの繰り返しに過ぎない。
憲法では、明文で徴兵制の禁止が定められているわけではない。
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