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ウクライナ紛争と航空機撃墜(中)――ロシアの長い沈黙

大野正美 朝日新聞記者(報道局夕刊企画班)

 少し細かくなるが、7月17日の撃墜事件発生当初の親ロシア派やロシア・メディアの動きを見てみよう。

 最も早く反応したのが、「ドネツク人民共和国軍の総司令官」を名乗る親ロシア派武装勢力のストレルコフ幹部だった。

 マレーシア機が行方不明という報道が流れたモスクワ時間午後5時15分からわずか35分後の午後5時50分には、ロシアのソーシャルメディアに「たった今、(ウクライナの)アントノフ(AN26)型輸送機を撃ち落とした。『我々の空』を飛ぶなと警告していたのに」と書き込んだ。撃墜の証拠として、黒煙が上がった現場のビデオ映像が添えられ、「もう1機、恐らくはスホイ(戦闘機)も撃墜したとの情報もある」とつけ加えていた。

ロシアのソーシャルメディアに現れた「アントノフ26輸送機を撃墜した」とする親ロシア派武装勢力のストレルコフ幹部の書き込み拡大ロシアのソーシャルメディアに現れた「アントノフ26輸送機を撃墜した」とする親ロシア派武装勢力のストレルコフ幹部の書き込み
 一方、ロシアの通信社の報道も扱っているNewsWirePoolという情報サービスに、ロシア国営のリア・ノーボスチ通信の報道が現れたのは、モスクワ時間の午後6時14分だった。

 内容は「目撃者がリア・ノーボスチ通信に語ったところでは、義勇軍兵士(ロシア・メディアの親ロシア派武装勢力の呼び名)らが、ウクライナ東部でウクライナ空軍輸送機を撃墜した」というものだ。

 国営イタル・タス通信も午後7時1分、目撃者の情報をもとに、ほぼ同じ内容を報道した。ここでは「自称ドネツク人民共和国の」と義勇軍の所属をより詳しく特定している。

 リア・ノーボスチ通信が報道を修正し、墜落したのがマレーシア機であるとしたのは午後7時43分になってからだった。「前にはドネツク州でAn26輸送機が墜落したが、後からマレーシア航空のボーイング777事故の情報が入ってきた」との内容だ。

 この報道で注目されるのは、目撃者の話として「午後5時ごろ、An26輸送機とは別に大型でない飛行機が撃墜され、周辺をドネツク人民共和国義勇軍が包囲している」としていたことだ。

 この間、ウクライナ政府が、マレーシア機は親ロシア派の支配地域で発射された地対空ミサイル「ブーク」によって撃墜されたとの主張を強めたのを受け、午後7時53分、リア・ノーボスチ通信は「高さ10キロを超す高空を飛ぶ旅客機を撃墜する能力のある兵器を『ドネツク人民共和国』義勇軍は持っていない」とするボロダイ「人民共和国」首相の声明を伝えた。

 ボロダイ氏は「もし撃墜されたのが旅客機だったのなら、我々がやったことではない。私の情報では墜落した飛行機はボーイングよりずっと小さい」ともした。

 3時間後の午後10時52分、リア・ノーボスチ通信は、マレーシア機の墜落と親ロシア派勢力との関わりについての情報を、とりあえずまとめて報道した。

 ここでは上記のボロダイ氏の発言と共に、「ウクライナ軍が、自国領を飛行したマレーシア機をロシアのスパイ機ととらえ、撃墜した可能性がある」とする「ドネツク人民共和国」のプルギン副首相の発言を伝え、さらに、「マレーシア機はウクライナ空軍の攻撃機によって撃墜された」とする「ルガンスク人民共和国」報道局の声明も使っている。

 マレーシア機墜落を「(親ロシア派武装勢力による)テロ行為」とするポロシェンコ大統領などウクライナ側の主張にも触れているものの、ウクライナ犯行説を強調することに大きく力点を置いた内容となっている。

 ここまでの情報の動きを見ると、ウクライナ軍の輸送機を撃墜したとする親ロシア派武装勢力の情報をうのみにしてこれを垂れ流していたロシア・メディアは、 ・・・続きを読む
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筆者

大野正美

大野正美(おおの・まさみ) 朝日新聞記者(報道局夕刊企画班)

1980年、朝日新聞社入社。水戸支局、外報部、東京社会部などを経て、1986年からサンクトペテルブルクに留学、モスクワ支局勤務は3回計11年。論説委員、編集委員、国際報道部・機動特派員を経て、現在は報道局夕刊企画班。著書に『メドベージェフ――ロシア第三代大統領の実像』『グルジア戦争とは何だったか』(いずれもユーラシア・ブックレット、東洋書店)など。

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