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舛添知事訪韓への非難から見える日韓の課題

金恵京 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

 7月下旬に東京都知事として18年ぶりに韓国を訪問した舛添要一氏が、ネットや一部週刊誌上で非難を浴びている。

 朴槿恵大統領との会談の様子などから、辞任を求めたり、強い調子で非難する文言が都庁あるいは主たる支持母体である自民党都連のホームページに寄せられ、いわゆる「炎上」と呼ばれる状態となったのである。

韓国大統領府で会談する舛添要一・東京都知事と朴槿恵大統領=2014年7月25日、ソウル、東亜日報提供拡大韓国大統領府で会談する舛添要一・東京都知事と朴槿恵大統領=2014年7月25日、ソウル、東亜日報提供
 これは今後の日韓関係や外交を考える場合、弊害が多く、様々な課題を象徴している事態と見受けられることから、その背景にある日韓両国の課題も含め検討を加えたい。

 ここで、前提として理解しておかねばならないのは、現在話題となっている状況は、舛添知事の行動と発言だけでなく、この2年ほど悪化した状態が続く日韓関係が引き金となり、一部の勢力が集中的に舛添知事に非難を加えるという構図である。

 今回の行動を簡単に整理してみる。ソウル市の招待により7月23日に訪韓した舛添知事は、セウォル号沈没事故の犠牲者への献花や弔問、及び地方自治体関係者との会合などで2日間を過ごし、25日午前中に朴槿恵大統領を表敬訪問し、25日午後にソウル大学にて「日韓関係の現状と将来展望―東京都からの視点」と題する講演を行った。

 こうした中で25日の行動が集中的に非難されることとなった。

 より詳細に見ていくと、会談に際して、舛添知事は日本式の礼儀に則り笑顔でお辞儀をしながら朴大統領に握手をして会談を始め、安倍首相からの「日韓関係改善のために力を尽くす」とのメッセージを伝えた。

 そして、朴大統領は日本のヘイトスピーチの広がりに懸念を示した上で、「日本の一部の政治家による不適切な言行が両国関係に大きな困難をもたらしてきた」と発言した。

 これらに対して、腰をかがめつつ握手した際の写真を韓国メディアが掲載したことで日本の姿勢が卑屈に映るとの指摘があがり、「高飛車な朴大統領に一方的な歴史認識を披露させた」と伝えるメディアもあった。

 ただ、韓国の大手メディアは舛添知事の訪問を、停滞する日韓関係改善の端緒となるものと捉えており、自国が外交的に優位に立ったと伝えるものは無かったため、筆者は不思議な印象すら受けた。

 また、立場を変えて、もし安倍首相と韓国の地方自治体の首長が会談した際に韓国の首長が恭しい態度をとらなかったならば、恐らく現在舛添知事を批判しているのと同じ人々がその行動を批判するようにも思われる。つまり、これらの批判は多くの不自然な点を内包しているのである。

 そして、ソウル大学での講演において舛添知事が「90%以上の東京都民は韓国が好きなのに、一部がヘイトスピーチをして全体を悪くしている」(『朝鮮日報』日本語版ホームページより)と述べたとされたため、根拠の無いデータをいい加減に用いたとしてリコールを要求したり(地方自治法上、当選から1年に満たない首長のリコールは不可能である)、「非国民」や「売国奴」といった前時代的な言葉、あるいはネット特有の相手を愚弄する言葉が舛添知事に向けられることとなった。

 確かに、私自身も初めてその報道に触れた際には、かつて扱うデータに最大限の厳密さを求める研究の世界に身を置いていた舛添氏の発言としては、多くの世論調査との整合性がとれていないと感じた。

 それらの反応に対して、舛添知事はある報道番組上で、朴大統領就任後、初めて日本の政治家と直接会談を行ったという成果に注目するべきとして、礼儀を尽くすことは建設的な外交には欠かせないと主張した。

 また、帰国後の定例会見において、90%の東京都民が韓国を好きというのは「都民を含めて国民は非常に常識を持っているから、ほかの国民をあしざまに言うような形のヘイトスピーチには、ここで手を挙げてもらってもいいですよ。記者のみなさん、ヘイトスピーチ大賛成って、おられますか、挙げてみてください。1割もいないじゃないですか、という状況を申し上げたというのをねじ曲げて、90%は韓国民が好きだと言った」というように情報が誤って伝わったものと述べている。

 私は問題の場に同席した訳でもないが、情報を整理すれば、舛添知事の行動は都市間外交を行い、首相の意思を伝える地方自治体の首長としての典型的な行動だったといえる。少なくとも、非難が殺到するようなものではなかった。

 そう考えれば、舛添知事に向けられた批判は、単に彼の今回の行動に対して向けられたものではなく、この2年ほどの間に悪化した日韓関係の産物であるように思われる。つまり、嫌韓感情の高まりから韓国に対して少しでも共感を示すような動向に対して一斉に非難を行うという、ある種のネット上の「公式」に沿った行動と見ることができるのである。

 では、その認識はどのように形成されたのであろうか。ここでは外交の場における動向に限定して話を進める。

 本来、外交を円滑に行う場合、双方が自らの主張だけでなく、相手の主張を理解しつつ、妥協の中で落としどころを探り、両者が納得できる地点で妥結していくものである。しかし、現在日韓双方の政権を強く支持する層の一部(声が大きく、最も目立つ層でもある)は、自らの希望が100%通る成果以外にはそれを評価せず、他者との対話や寛容さを失っている。

 そして日本には、安倍首相は冷静なのに、朴大統領が意固地になり、外交を滞らせているとの印象もある。日本の側からのみ主張を見ていると、確かにそういうように映りもする。

 「対話のドアは常に開いている」と首脳会談を呼びかけながらも、韓国の主張に毅然と対応する首相は頼もしくも冷静な存在に見えるという寸法である。

 では、それを韓国の側から見てみると、状況は大分異なってくる。

 韓国が歴史問題というボールを投げているのに、安倍首相は歴代の政権の立場を踏襲した発言をしつつも、実際の行動では韓国が常に懸念を示してきたこと(靖国神社への参拝や、河野談話を有名無実化させる検証の実行など)を敢えて行っている。

 つまり、安倍首相は言動と行動が全く異なっているため、対話が成り立たないとの印象があり、それを正すために韓国側が同じような発言を繰り返す構造に陥っているのである。

 一方で、筆者は韓国の日本に対する外交姿勢が的確なものとも捉えていない。 ・・・続きを読む
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筆者

金恵京

金恵京(きむ・へぎょん) 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

国際法学者。日本大学危機管理学部准教授、早稲田大学博士(国際関係学専攻)。1975年ソウル生まれ。幼い頃より日本への関心が強く、1996年に明治大学法学部入学。2000年に卒業後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程に入学、博士後期課程で国際法によるテロリズム規制を研究。2005年、アメリカに渡り、ローファームMorrison & Foester勤務を経て、ジョージ・ワシントン大学総合科学部専任講師、ハワイ大学東アジア学部客員教授を歴任。2012年より日本に戻り、明治大学法学部助教、日本大学総合科学研究所准教授を経て現在に至る。著書に、『テロ防止策の研究――国際法の現状及び将来への提言』(早稲田大学出版部、2011)、『涙と花札――韓流と日流のあいだで』(新潮社、2012)、『風に舞う一葉――身近な日韓友好のすすめ』(第三文明社、2015)、『柔らかな海峡――日本・韓国 和解への道』(集英社インターナショナル、2015)、最新刊に『無差別テロ――国際社会はどう対処すればよいか』(岩波書店、2016)。

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