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スコットランドの住民投票が、沖縄の「自己決定権」を求める動きを強化した

佐藤優 作家、元外務省主任分析官

 9月18日にスコットランドで行われた英国からの独立の是非を問う住民投票では、反対が200万1926票(55・25%)、賛成が161万7989票(44・65%)で独立反対派が過半数を占めた。

 英国の正式名称は、「グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国(the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)」で、略称はUKになる。日本外務省で、外交行事のときは「連合王国」という略称を用いる。

自治政府のサモンド首席大臣(最前列右端)と、各国の言葉で「イエス」と書かれたパネルを持つ支持者たち=9日、英スコットランド・エディンバラ拡大投票の運動期間中国、スコットランド自治政府のサモンド首席大臣(最前列右端)と、各国の言葉で「イエス」と書かれたパネルを持つ支持者たち=2014年9月9日、エディンバラ
 英国の国名には、民族を意味する言葉が1つも入っていない。大ブリテン島(グレート・ブリテン)の主要民族は、イングランド人、ウエールズ人、スコットランド人だが、グレート・ブリテン人という民族はいない。

 また、アイルランド人という民族はいるが、北部アイルランド人という独自民族は存在しない。

 国家に民族を意味する名称が入っていないのは、バチカン市国と英国だけだ。

 その意味で、英国は、近代的な国民国家とは異なった原理で構築されている国家である。女王(王)に対する忠誠を軸に、イングランド、ウエールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの地域が連合して国家を形成している。

 こういう事情があるので、イギリスの行政は地方に分散し、政党・国会議員が国家的規模での課題に取り組むという分業がなされている。英国政治に詳しい山口二郎法政大学大学院教授は、

<イギリスの政治においては、政治の集中と行政の分散の組み合わせによって特徴づけられる(サッチャー時代に、地方自治体に対する中央政府の干渉は強められたが)。住民にとって身近なサービスについては地方自治体が自立的に政策を作り、実行する。その意味では、行政は分散している。他方、政党・国会議員は国民全体に広く関係する包括的な課題、社会保障、教育、環境、外交などに関心を集中し、活発に論争している。このような状態が政治の集中である>(山口二郎『イギリスの政治 日本の政治』ちくま新書、1998年、20頁)

 と指摘する。

 しかし、スコットランドでは、従来の英国型政治が機能しなくなっている。2011年5月5日に行われたスコットランド議会選挙では、スコットランド国民党(SNP)が第1党になった。国民党が過半数の議席を獲得したのは初めてのことだ。なお、この選挙における各政党の獲得議席数は次の通りだった。

 スコットランド国民党 69議席
 労働党 37議席
 保守党 15議席
 自由民主党 5議席
 緑の党 2議席
 その他 1議席

 2011年のスコットランド議会選挙の結果、国民党のアレックス・サモンド党首が、スコットランド首相に選出(再選)された。この政党は、スコットランドの民族主義を強調し、反イングランド主義の姿勢を鮮明にしている。

 第二次世界大戦中は、徴兵拒否運動を展開した。こういう運動が起きる背景には、1707年にイングランドとウエールズに併合されるまで、スコットランドは、独立した王国だったという経緯がある。連合王国としてのスコットランドは、長いスコットランド史の中の直近300年に過ぎないという自己意識を多くのスコットランド人が持っている。

 今回の住民投票は、2011年のスコットランド議会選挙で英国からの独立の是非を問う住民投票の実施を公約に掲げたスコットランド国民党(SNP)が過半数の議席を制して勝利したことを受けて、英国の中央政府とスコットランド自治政府が2012年10月に署名した「エディンバラ合意」に基づいて行われた。

 <有権者登録した約430万人は、登録資格のある人の97%ともいわれる。最終的な投票率は84・6%に上り、住民の関心の高さをうかがわせた。
 世論調査で独立反対派は一時、賛成派にリードを奪われたものの、キャメロン首相の与党保守党など英政界の主要3党首がスコットランドに入り、自治権のさらなる拡大を誓約するなど、土壇場の引き留め策を展開。これが奏功したのか、直後の調査以降、小差ながら再びリードを取り戻した>(9月19日『朝日新聞デジタル』)

 今回の住民投票で注目されるのは、84.6%という非常に高い投票率だ。独立の是非についてスコットランド住民のほとんどが自らの立場を決定しているということだ。言い換えると、独立の是非をめぐってスコットランド社会が分断されているということだ。

 さらに独立に反対票を投じた有権者の中には、英国政府がスコットランドの自治権拡大を約束したので、それに期待して「スコットランドは英国から独立する自己決定権を持っているが、現状ではそれを行使するには及ばない」と考えている人が相当数いる。

 独立派は、スコットランド人の自己決定権を前提としている。となると、明確な数値で明示することはできないが、スコットランドの自己決定権を認める人が過半数であることが住民投票の結果、可視化された。

 また、今回、英国政府のみならず、国政レベルの与野党がすべて独立に反対して「独立すると経済的に困窮するぞ」という圧力をスコットランドにかけたことに対して、独立派だけでなく多くのスコットランド人が、差別されているという不快感を抱いた。6月4日、ロンドン発のロイター通信の報道がこの雰囲気を伝えている。

<9月18日に実施されるスコットランド独立の是非を問う住民投票に向け、英政府は、レゴを使ったユーモアで英国残留を住民に呼びかける新たなキャンペーンを開始した。
 政府の公式ウェブサイトなどによると、英国に残留した場合、独立するよりも年間1400ポンド(約24万円)程度の経済的な恩恵が得られるとし、その使い道の提案12例をレゴブロックで表現している。
 1つ目の提案は、海外のビーチで過ごす10日間のホリデー。1400ポンドで10日間の海外旅行に2人行け、日焼けクリームも買えるとし、レゴでビキニ姿の女性がビーチに横たわり、日焼けしている様子を表現している。
 ほかにも、エディンバラとグラスゴーをバスで127回往来できたり、エジンバラフェスティバルでホットドッグを280個食べられたりできるとユーモアで残留を呼びかけている。
 だが、スコットランドの住民すべてがこうした提案をユーモアと捉えているわけではない。ある女性はツイッターで「よくも私たちをばか者扱いできるものだ。(独立に)反対する人がいるなんて全く理解できない」と語っている>

 英国政府はユーモアのつもりだったのであろうが、多くのスコットランド人が侮辱と受け止め、独立支持が加速した。その過程で過去のイングランドとの戦争、英語の普及によってスコットランド語が衰退していったこと、第二次世界大戦中に英国の戦争に加わる必要はないと兵役拒否をしたスコットランド人に対してかけられた弾圧の記憶などが甦ってきた。

 この住民投票の結果を踏まえ、スコットランド自治政府は英国政府と、北海油田からの税収分配、スコットランドに所在する英国唯一の原子力潜水艦基地の移転などの問題を交渉することになる。

 両者の妥協がそう簡単に見出されるとは思えない。従って、スコットランド独立派が、英国からの分離独立を諦める可能性はない。

 数年後に再度、スコットランド自治政府が英国政府に対して独立の是非を問う住民投票を行うことを提起する可能性が十分ある。英国政府は、「すでに英国残留の民意が表明されたので、そのような住民投票を行う必要はない」と拒絶するであろう。そうなるとスコットランドと英国政府の関係が再度緊張する。

 今回のスコットランド住民投票をめぐって、沖縄のメディアは強い関心を示した。『琉球新報』は、エディンバラに記者を派遣して特別の報道体制を組み、9月20日の社説でこう主張した。

スコットランド 自治権拡大は世界の潮流だ
 世界の耳目を集めたスコットランドの独立を問う住民投票が終わった。独立反対が賛成を上回り、独立は否決された。この地域の将来像を決める権利を持つのは言うまでもなくその住民だけである。その意思決定を重く受け止めたい。
 それにしても、民主的手続きを通じて国家の解体と地域の分離独立の可能性を示した試みは世界史的に重要な意義がある。それを徹底的に平和的な手段でやり遂げたスコットランド住民に深く敬意を表したい。
 賛否双方の住民が公明正大に論議を尽くす姿にも感銘を受けた。投票権者の年齢を16歳以上へ引き下げた点も印象深い。将来像を問うのだから若年者はまさに当事者であり、だから投票権を与えるべきだという発想だろう。民主主義の原点を見る思いだった。
 1707年まで独立国だったスコットランドだが、サッチャー政権は炭鉱を閉鎖し、1989年に人頭税の先行導入を強要した。差別的処遇への反発が高まり、英政府は99年、大幅な地方分権を余儀なくされた。スコットランド議会が約300年ぶりに設置され、軍事や通貨などを除く多くの分野でスコットランドに独自の立法権を認めざるを得なくなった。
 今回の住民投票もその延長線上にある。独立反対が多数だと高をくくっていたキャメロン英首相も、賛成派が急追したことで投票直前に慌てて訪れ、一層の自治権限拡大を約束せざるを得なかった。
 島袋純琉大教授によると、スコットランド自治政府は現時点でもあらゆる分野で高度な自治権を持つ。英国の政府予算の一部は自動的に自治政府に配分され、英政府のひも付きでなく独自に予算配分を決定できる。欧州連合(EU)の機関にも独自の代表を置く。中央政府と外交権を共有するのに近い。
 そこに一層の権限拡大が約束された。だから、賛成派は独立こそ勝ち取れなかったものの、大きな果実を得たとも言える。原潜の基地の存在にも焦点を当て、非核化の願いを国際的に可視化した意義も大きい。
 冷戦終結以降、EUのように国を超える枠組みができる一方、地域の分離独立の動きも加速している。国家の機能の限界があらわになったと言える。もっと小さい単位の自己決定権確立がもはや無視できない国際的潮流になっているのだ。沖縄もこの経験に深く学び、自己決定権確立につなげたい>

 スコットランドの住民投票が、沖縄人の集合的意識と集合的無意識の双方を刺激している。 ・・・続きを読む
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筆者

佐藤優

佐藤優(さとう・まさる) 作家、元外務省主任分析官

1960年生まれ。作家。元外務省主任分析官。同志社大学神学研究科修士課程修了。外務省では対ロシア外交などを担当。著書に『宗教改革の物語――近代、民族、国家の起源』(KADOKAWA)、『創価学会と平和主義』(朝日新書)、『いま生きる「資本論」』(新潮社)、『佐藤優の10分で読む未来』(新帝国主義編、戦争の予兆編、講談社)など多数。

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