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集団的自衛権論議に抜け落ちている視点はないか(上)――安倍首相の本当の意図

谷田邦一 朝日新聞専門記者(防衛問題担当)

 安倍政権は今年7月、閣議決定で憲法解釈を見直し、集団的自衛権の行使容認へとかじを切った。まもなく3カ月になるが、政策転換をめぐる世論は今も真っ二つに割れたままだ。

 「海外での武力行使に道が開かれる」とする反対派、「国際環境が厳しくなる中で抑止力が高まる」とする賛成派。互いに堅い信念や理屈に基づく議論は平行線をたどっているが、果たして抜け落ちている視点はないのか。日本を取り巻く様々な変化を踏まえて再点検してみよう。

 無数の小島が点在する長崎県の西海国立公園。その一角にある相浦駐屯地でこの夏、「日本版海兵隊」にあたる水陸両用部隊の養成訓練を見学した。

駐屯地内の入江を使って行われたボートの操船訓練=撮影・筆者拡大相浦駐屯地内の入江を使って行われたボートの操船訓練=2014年7月、撮影・筆者
 白い水泳帽に足ひれを着け、へとへとになるまで室内プールを往復する長距離水泳。埠頭に止めたトラックの荷台を航空機に見立て、次々とダイブする海面降下。艦艇からの出し入れを想定し、8人がゴムボートと一体化して動く操船……。18歳から48歳までの隊員約80人が参加した「水陸両用基本訓練課程」(5週間)の一コマだ。

 米海兵隊による指導が始まったのは2006年。

 拡大する中国の軍事的挑発への備えとはいえ、地上戦の主役である陸上自衛隊が、かくも徹底して海と「格闘」しているとは、その変貌ぶりに驚かされた。

 隊員たちが放つ気迫は、東シナ海をめぐる安全保障環境がいかに悪化しているかを裏付けるものだった。

 日中の摩擦が激化したのは、民主党の野田政権が2012年9月、尖閣諸島を国有化し中国が反発を強めたことに端を発する。

 中国公船による頻繁な領海侵入、中国艦艇のレーダー照射、国際ルールを無視した防空識別区の設定など、しだいに挑発の度合いを高め、今年5月と6月には公海上空で中国戦闘機が自衛隊機に異常接近を繰り返すようになった。

 日中関係はまさに衝突寸前の瀬戸際にあると言っても過言ではない。自衛隊の現場を取材して20年余になるが、隣国の脅威にこれほど薄気味悪さを覚える経験をしたことはない。

 安倍首相は今年1月、ダボスであった世界経済フォーラム(WEF)の年次総会で、日中の対立関係を第一次世界大戦直前の英独関係になぞらえた。互いに貿易に依存していた欧州の大国でさえ衝突を回避できなかったとし、日中間の信頼醸成措置やホットラインの設置などを呼びかけた。

 9月に入り、中国側はようやく衝突防止のための「海上連絡メカニズム」の交渉再開に応じる兆しが出てきたものの、その行方はまだ定かでない。

 こうした流れの中で、安倍政権は対中戦略を大きく見直した。国家安全保障戦略を策定し、防衛大綱の中心に南西諸島防衛をすえた。武器輸出を解禁し、歴代内閣が避けてきた集団的自衛権の行使容認にも踏み切った。

 米国の対中戦略「エンゲージ(関与)とヘッジ(防護)」のように、協調と強制のバランスが取れていれば、この安全保障体制の強化は賢明といえる。

 しかし軍事にやや偏重した姿勢が国内の反発を招いている。日本が今求められている役割は、北東アジアに蔓延する排他的ナショナリズムをいかにクールダウンするかにある。

 安全保障は防衛だけではない。外交や経済、信頼醸成など数多くの要素から成り立っている。相手を突き放すのではなく、国際社会にうまく適合させて敵対関係になるのを避ける知恵が必要だ。

 習近平政権は、中国の経済改革に日本の投資や技術力が不可欠であることを熟知している。中国との良好な関係を構築するための対中ビジョンにもっと力を入れるべきだろう。

 なぜ今、集団的自衛権の行使容認なのかという理由もわかりづらい。 ・・・続きを読む
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筆者

谷田邦一

谷田邦一(たにだ・くにいち) 朝日新聞専門記者(防衛問題担当)

1959年生まれ。1990年、朝日新聞社入社。社会部、那覇支局、論説委員、編集委員、長崎総局長などを経て2013年4月から社会部専門記者(防衛問題担当)。主要国の防衛政策から最新兵器、軍用技術まで軍事全般に関心がある。防衛大学校と防衛研究所で習得した専門知識が、現実の紛争地でどのくらい役立つのか検証取材するのが夢。

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