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沖縄知事選に、「沖縄人」のアイデンティティーをみる

佐藤優 作家、元外務省主任分析官

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 11月16日に投開票が行われた沖縄県知事選挙では、翁長雄志氏(前那覇市長)が圧勝した。

自身の当選を伝える沖縄タイムスに目を通す翁長雄志氏=2014年11月17日、那覇市自身の当選を伝える沖縄タイムスに目を通す翁長雄志氏=2014年11月17日、那覇市
 翁長氏は、現職の仲井真弘多氏を10万票も離し、有効投票率の51・22%を占めた。米海兵隊普天間飛行場の県外移設と辺野古(沖縄県名護市)への新基地を造らせないという姿勢を鮮明にした翁長氏に、保守、革新を超えた「オール沖縄」の支持が集まった。候補者は全員で4人で、各人の獲得投票数は次の通りだった。

翁長雄志 無所属・新 36万0820票
仲井真弘多 無所属・現 26万1076票
下地幹郎 無所属・新 6万9447票
喜納昌吉 無所属・新 7872票
(投票率 64.13%)

 具体的な争点となったのは、米海兵隊普天間飛行場の移設問題だ。しかし、より本質的な事柄が今回の知事選挙で問われた。

 それは、沖縄が東京の政治意志に隷属する日本の一地方に止まるか、それとも過去に琉球王国という独自国家を持ち、他の日本の諸地域とは異なる歴史と文化を持つ沖縄が自己決定権を確立すべきかという沖縄人のアイデンティティーをめぐる問題だ。

 投票日の16日、「琉球新報」は社説でこう記した。

 <第12回沖縄県知事選挙がきょう16日、投開票される。12回目だが、単なる繰り返しでない特別な意味があることは周知の通りだ。県内だけでなく全国的、国際的にも高い関心を集めている。
それだけではない。この1年の動きを考えれば、この選挙では、沖縄の土地や海、空の使い道について、われわれに決定権、すなわち自己決定権があるか、適切な判断ができるか否かが問われている。1968年の主席公選にも匹敵する歴史に刻まれる選挙といえる。国際社会にも、沖縄の先人にも後世にも恥じない選択ができるか。考え抜いて1票を投じたい。>

 この記述が沖縄人の標準的な認識を示している。翁長雄志知事の誕生によって沖縄の自己決定権強化の動きは一層強化されることになる。

 この動きを別の視座から見ると、今後、沖縄は日本とどう付き合っていくかという「日本問題」が深刻になっていくということだ。日本の陸地面積の0・6%を占めるに過ぎない沖縄県に在日米軍基地の74%が集中しているのは尋常な事態でない。

 民主党の鳩山政権は、普天間飛行場の移設先として沖縄県外を追求するという姿勢を示したが、外務官僚と防衛官僚に包囲されて、辺野古移設に回帰した。

 問題は、そのときの理屈だ。沖縄以外の都道府県が米海兵隊基地を受け入れないのは、地元の民意が反対しているからだ。地元の民意が反対する政策を強要しないというのが、現憲法下の政府の民主主義政策のはずだ。沖縄の民意も海兵隊基地の受け入れに反対している。

 これは沖縄に関しては、民主主義政策が適用されないということだ。これは政治的差別以外のなにものでもない。

 差別が構造化している場合、差別をする側は、自らが差別者であることを認めないのが通例である。沖縄は、「日本の中央政府がわれわれをほんとうに同胞と考えるならば、辺野古に新基地を建設するなどという差別を固定化するような政策をやめろ」と主張しているのだ。

 一昔前まで、沖縄人は沖縄差別を口にすると、もっとひどい差別を受けるのではないか、あるいは差別などという認識を持つと惨めになると考え、耐えていた。そして、差別されないようになろうと懸命な努力をした。その結果、以前のような結婚差別、就職差別、住宅賃貸時の差別などの社会的、経済的差別はなくなった。

 しかし、米軍基地の過重負担に代表される政治的差別がむしろ強化されつつある。このような状況で、「沖縄における米軍基地の過重負担が構造的差別である」と指摘できるほど沖縄と沖縄人は強くなったのである。その沖縄の強さを人格的に体現しているのが翁長雄志新知事なのである。

 日本の一部には、保守系の翁長氏が知事になっても、中央政府から圧力を加えられれば再び辺野古容認に立場を変更するという見方がある。これは沖縄の自己決定権を軽視した非現実的な見方だ。

 1879年の「琉球処分」によっても、沖縄人は、自らの共同体、文化を維持し、沖縄人という自己意識を失うことはなかった。同時に沖縄人も日本人としての自己意識も持つようになった。そのため現在、沖縄人の自己意識は、現在4つのカテゴリーに分かれている。

 第1が、沖縄人性を完全に放棄し、日本人以上に日本人になろうとする沖縄人だ。日本人に過剰同化する沖縄人と言ってもいい。

 第2が、「沖縄系日本人」

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