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 1月19日は慌ただしい一日だった。ソウル西部地裁ではいわゆるナッツリターン事件の初公判が開かれ、同じ頃ソウル中央地裁では産経新聞前支局長の件での3回目の公判も行われていた。

 両者ともに日本では話題の事件。ところでこの日、地元韓国の人々にとっては「さらなる事件」の方が関心ごとだったようだ。

 一つは数日前から大騒ぎの「保育園での虐待事件」。連日のように新たな虐待事実が発覚し、テレビ、ネット、人々の日常会話もそればかりだ。

 「なんだか、あらたな魔女狩りという風ですね」

 ナッツリターン報道にも当初から批判的だった韓国人の友人がおっしゃるとおり、なるほど日本と同じく集団バッシングはすさまじい。

 さらにこの日は、18歳の韓国人青年が「イスラム国」に参加したのでは、というニュースが朝から世間を騒がせていた。不登校から高校中退をした彼に何があったのか。日本の人質事件に比べれば緊急性は低いが、今の世界の流れからみたら看過できないだろう。

 新たな事件も大変気がかりなのだが、とりあえず今回は、ナッツ事件の話だ。

韓国に行くならナッツエアーで!

 事件直後から、「ナッツエアー」はまるで大韓航空の愛称のように なってしまった。

 「どうせ韓国行くならナッツエアーに乗りたい」という日本人も結構いて、もしかしたら大型炎上商法? なんてことはないだろうが、韓国でも事件直後から「タンコン航空」(タンコンは韓国語でピーナッツの意味)という言葉が広がり、パロディ動画なども続々と登場していた。

 例えばそのうちの1つは、画面にピーナッツマークをつけた大韓航空に似た機体が登場し、そこにファーストクラスにおける客室サービスの詳細がアナウンスされる。

 「なお、ファーストクラスのお客様にはピーナツは袋からだし、さらに細かくくだいて……」

ナッツエアー拡大「ナッツエアー」のパロディ動画から
http://www.youtube.com/watch?v=HBolOFoVmdw
 声のトーンはいかにも機内アナウンスといった風で、ここらへんの韓国人のユーモア、瞬発力、動画製作能力等は素晴らしいと思う。

 ちなみに私自身も日本への帰省にあたり、今回は大韓航空をちょっとワクワクしながら利用した。

 久しぶりだったのだが、他社より従業員はにこやかで細やかな気遣いを感じた。さらに機長の腕が素晴らしかった。ナイスランディング、あんなにスムーズな着陸はここ数年経験したことがない。

 エコノミークラスだったせいか、ナッツは出ずに日本製の亀田のおかきをいただいた。ファーストクラスの方ものぞいてみたが、日本発は大晦日ということでビジネスマンより金ネックレスにローレックス組が多くて、ぎょっとした。彼らの1人ぐらいはナッツを所望しただろうか。

 こうしてみるとナッツリターン事件は、大韓航空や韓国という国のブランド価値に致命傷というほどではなかったのではないか。

 むしろ、韓流ドラマさながらのダイナミックな展開が、広告的効果をもたらしたのかもしれない。さすがリアル韓流の国、ドラマファンが愛してやまないストーリーがまんま再現されている。

 韓国内のメディアなどは、2014年12月の大韓航空国内線利用者が前年度に比べ6.6%減になったことを「ナッツ事件の影響か」としている。ところが、国際線に関しては12月の国際線は逆に2.5%の増、むしろ搭乗者が増えているのだ。

 そもそもこの2年間、大韓航空国際線は連続で搭乗者数を減らしていた。それなのに12月に限っては2.5%増、少なくともナッツ事件は「悪材」ではなかったようだ。

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筆者

伊東順子

伊東順子(いとう・じゅんこ) フリーライター・翻訳業

愛知県豊橋市生まれ。1990年に渡韓。著書に『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書y)、『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)等。

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