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人質事件、首相は「和」の心を取り戻して発信せよ

本当の「美しい国」とは?

小林正弥 千葉大学大学院人文社会科学研究科教授(政治学)

「文明の衝突」に巻き込まれた日本

 前稿の後、痛ましくも湯川遙菜氏は殺害されたと思われ、1月31日時点では後藤健二氏の解放交渉がヨルダン政府によって行われており、日本国民の多くは、はらはらしながらその行方を見守っている。

 この事件は、安倍首相の中東訪問におけるメッセージが直接のきっかけになった。

 だからこそ、「イスラム国(IS)」側が後藤氏に「アベ、お前がハルナを殺した。われわれをとらえていた者の脅迫を真に受けず、72時間以内に行動しなかった」と述べさせたように、「イスラム国」はストレートに安倍首相に対してメッセージを発しているのである。

安倍晋三首相拡大安倍晋三首相が主張する「積極的平和主義」の内実が問われている
 安倍首相は、カイロのスピーチで「地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISIL(イスラム国の別称)と闘う周辺各国に総額で2億ドル程度の支援を約束する」と述べた(1月17日)。

 この結果、「イスラム国」側は、日本の首相は、アメリカが主導する「十字軍」に参加を志望したと受け取ったわけである。

 現に、「イスラム国」側は、支配地域の住民のインタビュー映像を公開し、「米国による広島、長崎の(原爆投下による)虐殺を忘れ、なぜ米国がイスラム教徒を殺害するのに手を貸すのか」「十字軍(米欧)連合に参加するという過ちを犯した」などと批判させた(1月29日)。

 安倍首相がこのようなメッセージを発信したのは、首相が「積極的平和主義」を世界に向けて発信しようとしたためである。

 フランスで週刊誌テロ事件が起きたので外務省内から今回の首相の中東訪問について「タイミングが悪い」という声があがったのに対し、首相は「フランスのテロ事件でイスラム国がクローズアップされている時に、ちょうど中東に行けるのだからオレはツイている」とか「世界が安倍を頼りにしているということじゃないか」とも言っていて、周囲は異様に感じたという(『週刊ポスト』2月6日号)。真偽のほどは定かではないが、首相は意気軒昂だったのだろう。

 だからこそ、首相は積極的にメッセージを発信し、「イスラム国」はそれに反発して、このような事件を引き起こした。

 政治は結果責任の世界だから、ここには、首相の政治責任を問う可能性がある。すでに、民主党の小川淳也議員は、カイロでのスピーチに「曲解される、あるいはつけ入られる恐れがある」と衆院予算委員会で指摘した(1月29日)。安倍首相の不用意なメッセージによって、日本は「文明の衝突」に巻き込まれてしまったわけである。

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筆者

小林正弥

小林正弥(こばやし・まさや) 千葉大学大学院人文社会科学研究科教授(政治学)

1963年生まれ。東京大学法学部卒業。2006年より千葉大学大学院人文社会科学研究科教授。千葉大学公共研究センター共同代表(公共哲学センター長、地球環境福祉研究センター長)。専門は、政治哲学、公共哲学、比較政治。マイケル・サンデル教授と交流が深く、「ハーバード白熱教室」では解説も務める。著書に『対話型講義 原発と正義』(光文社新書)、『日本版白熱教室 サンデルにならって正義を考えよう(文春新書)、『サンデル教授の対話術』(サンデル氏と共著、NHK出版)、『サンデルの政治哲学 〈正義〉とは何か』(平凡社新書)、『友愛革命は可能か――公共哲学から考える』(平凡社新書)、『人生も仕事も変える「対話力」――日本人に闘うディベートはいらない』(講談社+α新書)、『神社と政治』(角川新書)など多数。共訳書に『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』(ハヤカワ文庫)など。

 

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