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韓国で「姦通罪」はなぜ廃止になったか(上)

憲法裁判所による違憲判決の意味

伊東順子 フリーライター・翻訳業

最初に駐韓米国大使襲撃事件のことを少し

 韓国はいつも慌ただしい。圧縮型発展経済ゆえなのか、これが発展の原動力となったのかはともかく、ぼおっとしていると社会の動きから取り残されてしまう。

 「パリーパリー(早く早く)」という韓国語は、韓国に来た外国人労働者が最初に覚える言葉と言われる。

 2014年末のナッツリターン事件、そのわずか2ヶ月後のスピード判決(2月12日)、そこから「財閥問題」への切り込みが始まるのかと思いきや、降って沸いたような「姦通罪違憲判決」(2月26日)。メディアも世論もそこで盛り上がろうという矢先、なんと駐韓米国大使が白昼堂々パーティーの席で暴漢に襲撃されてしまった(3月5日)。

負傷し、会場を後にするリッパート駐韓米大使=5日朝、ソウル市内20150305襲われて負傷したリッパート駐韓米国大使=2015年3月5日、ソウル市内
 米国大使襲撃は明らかな警備上のミスだ。

 陰謀説を唱える人がいるのは世の常だが、一部では「有名人」であった犯人を知る人々の証言からも、おそらくその可能性はないだろう。

 幸い大使の回復は順調で、5日後には無事に退院することができた。

 中東訪問から戻った朴大統領もその足で病室に駆けつけ「米韓の近さを再確認」、メディアも世論も「米韓同盟堅守」で盛り上がり、大使としては図らずとも身を挺して結果を出した格好だ。

 ただ、この5日間の韓国社会の動きは当の韓国人の想像を超えた部分もあり、政治的にも社会的にも大きな議論が起きている。それについても思うことはあるが、ここでは編集部から依頼されていた姦通罪の話をまず書こうと思う。

 ただ一つだけ、日本のネット上などでは、一部の韓国人による極端な行動(大使の回復祈願のためのパフォーマンスや断食祈祷等々)が面白おかしく書かれているようだけれど、これには韓国人の多くも眉をひそめている。

 一部の極端な行動を根拠に「やっぱり韓国人は変」みたいな評価で溜飲を下げることは、韓国に対する正しい理解を妨げるし、ひいては日本のためにもならない。

 他民族を侮辱することは自らを貶めることである。姦通罪についても同じく、「ついに韓国は姦通が合法化」みたいな一部の扇情的な物言いには、滑稽なブーメランが返ってくるだろう。日本では70年近く前に姦通罪が廃止されているのだから。

 今回の「姦通罪廃止」を理解する上で重要だと思うのは、まず一つ目として、日本にはない「憲法裁判所」について、次に2つ目には韓国独特の法律だった「姦通罪」そのものについて、最後に

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