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沖縄対安倍政権、政府間紛争をどう見るか(上)

「県民の民意」と「国民の民意」の相剋

小林正弥 千葉大学大学院社会科学研究院教授(政治学)

「対話」にならない2つの「会談」

 沖縄県の翁長雄志知事は、普天間飛行場移設に向けた辺野古沿岸部の海底ボーリング調査の海上作業について「停止指示」を出した(3月23日)。これを政府は無効として、防衛省沖縄防衛局が農林水産相に対し、この指示の取り消しを求める審査請求を行って、林芳正農水相は停止指示の効力を一時停止すると発表した(3月30日)。

 おそらくこのような政権の強硬姿勢に対する批判が高まったので、知事が就任して約4カ月も経ってから、菅義偉官房長官と知事の会談(4月6日)、続いて安倍晋三首相と知事の会談がようやく行われたのだろう(4月17日)。しかし、いずれも議論は平行線のまま終わった。

 政権側は首相の訪米を前にして知事と対話したという姿勢を見せようとしていると思われるが、これらの会談では双方が自分の主張を述べ合っただけだから、本格的な「対話」とはならなかった。

安倍晋三首相との会談後、記者の質問に答える翁長雄志沖縄県知事(中央左)。右は安慶田光男・同副知事=17日午後、首相官邸安倍晋三首相との会談後、報道陣の質問に答える翁長雄志沖縄県知事。右は安慶田光男・副知事=2015年4月17日、首相官邸
 沖縄の地方紙によると、事前の調整では首相と知事の冒頭発言が5分ずつ報道陣に公開されることになっていたのに、翁長知事の発言が3分13秒のところで報道陣が退室させられて非公開にされてしまったので、知事は残りの発言内容やそのメモを会談後に報道各社に知らせたという。

 対話とは、信義に基づいて双方がお互いの主張に耳を傾けるところに成立するのだから、政府がこのような態度をとって移設作業を強行し続ける限り、「会談」は成立しても、「対話」が成立することは難しいだろう。

日本政治の堕落?

 翁長知事は、辺野古移設を「唯一の解決策」とする官房長官や首相に対して、「沖縄は自ら基地を提供したことは一度もない。銃剣とブルドーザーで強制接収され、基地建設がなされた」と指摘し、「自ら奪っておいて、その危険性の除去のために沖縄が負担しろ。お前たち代替案を持っているのか」と「こういった話がされること自体が、日本の政治の堕落ではないか」と問いかけた(4月6日)。

 そして、政府が辺野古の作業を「粛々と進める」と表現してきたことについて「上から目線」と批判し、1960年代に高圧的な占領統治で沖縄県民から反発されたアメリカのキャラウェイ・琉球列島高等弁務官について言及して、「『粛々』という言葉を何度も使う官房長官の姿が、米軍軍政下に『沖縄の自治は神話だ』と言った最高権力者キャラウェイ高等弁務官の姿と重なるような感じがする。県民の怒りは増幅し、辺野古の新基地は絶対に建設することはできない」と強く批判した。

 また、「粛々という言葉には問答無用という姿勢が感じられる。上からの目線の粛々という言葉を使えば使うほど、県民の心は離れ、怒りは増幅していく」と述べた(4月6日)。

県民の「圧倒的で濃厚な民意」と国民の「薄弱な民意」

 翁長知事は首相に対し、2014年の県知事選や衆院選で「すべての選挙で辺野古の新基地反対という圧倒的な民意が示された」(4月17日)と強調し、県内移設を求める政権の姿勢を「こんな理不尽なことはない」と批判して、「私は絶対に辺野古基地はつくらせない」と断言した(4月17日)。

 官房長官との会談の後の沖縄タイムスの世論調査では、このような知事の姿勢を83%の沖縄県民が支持している(4月7日)。この支持率を見ると、党派を超えて沖縄県民の圧倒的多数が政府の姿勢に反感を持っていると言っていいだろう。このような「圧倒的民意」を背景に、沖縄県知事は厳しい姿勢を取っているわけである。

 他方で、安倍政権が沖縄県民のこのような「圧倒的民意」を無視し続けているのは、国会における圧倒的多数の議席を根拠にして、自分たちが日本という国家全体における「民意」を背景にしていて民主主義的正統性を持っていると考えているからだろう。

 つまり、沖縄県民の「圧倒的民意」よりも日本国民全体の「民意」が優先されると考えているのであろう。

 民主主義という観点だけからは、いずれの立場も何らかの「民意」に立脚していると主張することができるかもしれない。しかし、この問題を深く考えてみるためには、

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