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[2]次代の安全保障、NGOの経験生かせるはず

軍事力一辺倒ではない国際社会への責任の果たし方

熊岡路矢 日本国際ボランティアセンター顧問

拡大安保関連法案の閣議決定後、記者会見する安倍晋三首相=2015年5月14日午後6時16分、首相官邸、飯塚晋一撮影

 ――安倍政権は5月14日夕、新たな安全保障法制の関連11法案を閣議決定しました。戦争中の他国軍を後方支援する新たな恒久法と、集団的自衛権の行使を可能とする武力攻撃事態法改正案などの改正一括法案がその中身です。

 日本では安倍首相の前のめりの姿勢も手伝って、安全保障や国際貢献というとすぐに軍事的な対応ばかり前面に出てきますが、NGOによる難民支援、開発協力など、安全保障に役立つ様々なアプローチがあるのではないでしょうか。

個別的自衛権で対応できる

 首相の説明を聞いたばかりで十分理解できていない面もありますが、日本を守るという点では、これまでの専守防衛(個別的自衛権)で対応できるのではないか、という印象を改めて持ちました。

 他国軍=米軍支援の具体的な状況としては、日本近海での米軍艦船への攻撃に対して、日本(自衛隊)が米軍への軍事支援で対応するという説明でしたが、政治的地位の低下はあるものの、軍事費世界断然トップ(世界の軍事費の約40%を占める。ストックホルム国際平和研究所=SIPRI調査による)である米国・米軍を攻撃するような仮想敵国はどこでしょう。

 中国、北朝鮮、ロシア、いずれの国とも、日本も米国も様々な外交交渉をつづけています。また「駆けつけ警護」の問題で、NGOが事例に挙がっていましたが、これまで、日本や外国のNGOが救助を求めたことがあったのでしょうか? あったのならならどのような状況だったでしょうか? 国会および社会で十分議論、検証してほしいと思います。

ODAの問題はイギリスが参考に

拡大熊岡路矢氏

 世界平和の基礎を支える、ODA(政府開発協力)の問題に関しては、イギリスの政策は参考になる点が多いと思います。例えば、国際協力の予算規模を量の問題とすれば、GNI(国民総所得)の0.7%を国際協力に充てる(OECDの目標)ということを、イギリスはすでに達成しています(日本は、0.2%前後で下回ることが多かった)。 しかも通常は政権政党が変わると、基本政策も変更されることが多いのですが、英国では、ブレア労働党から始まったその方針を今の保守党もちゃんと受け継いでいることも見逃してはならないと思います。国民的合意があると考えていいでしょう。

 もうひとつは質の問題、あるいは、何のためのODAか、という理念や目的の問題です。イギリスは非常に分かりやすく、ODAつまり政府の国際協力資金は、基本的に貧困削減に使うべきだという原則をもっていることです。貧困問題の解消、基礎教育、基礎保健、心身の健康や青少年、特に子どもたちの教育のために使われるべきだということですね。

 もちろん実際はどうなのかという議論の余地はありますが、原則自体はすっきりしています。地球レベルで貧困や飢餓を減らし、逆境にある子どもたち・人々の生活改善につなげる、「地球益」という客観的な利益を、自らの国益として表現しています。また、その趣旨を格調の高いアピールなどで上手に表現しています。ところが日本の場合、すぐ「国策=国益」(たとえば、安保理事国になるための票を獲得する、日本経済や日本企業に裨益するなど)というのが出てきてしまうので、歪んでしまいやすいのですね。

 また、イギリスでは国際協力NGO活動が、古くは20世紀初頭から、多くは、第二次世界大戦の前後から、非常に盛んで、歴史のある団体では、オックスファム(OXFAM)、クリスチャン・エイド(Christian Aid)、セーブ・ザ・チルドレン・ファンド(Save The Children Fund)などがあります。たくさんある国際NGOの国内協議団体(まとめ役)としてBOND(英国国際開発NGO協議会)があり、約300の個別団体が登録しています。

 無論、宗教系、非宗教市民団体系など個別の団体の考え方の差はあるのですが、英国NGO全体としても、長い経験と知見を通して、国際開発協力の基本を、やはり貧困削減、基礎保健や基礎教育の充実においています。英国の場合は、NGOの考え方を、政府が取り入れていったという側面が強いでしょう。そして、紛争地、災害地での人道支援はいかにあるべきかという論点や方針を、NGOは明確に出しています。

狭い国益を越え「地球益」の視点を

 ここでも狭い国益ではなく、上記の地球益が中心で、その点で、政府とNGO(民間、市民)ということで、無論立場は異なりますが、結論は大きく言えば、ほぼ同じです。また政府―NGO間の対話も長い歴史があり、時に対立することもありますが、かなり成熟したものです。特に2005年、英国でのサミット開催(グレンイーグルズ)では、事前に英国政府とNGOが協力して、貧困削減などの、地球規模課題、MDGs(ミレニアム開発目標)達成などに関する課題と論点を協議・整理したと聞いています。

 英国のNGOやBOND(協議会)は、日本をふくむ世界のNGOや、NGO協議会とも連携しています。このように政府と、一定の連携をしている英国NGOでも、紛争地での人道支援活動において、英国政府、英国軍と直接協力しているとは、私は聞いたことがありません。紛争地でNGOが自国軍に保護を求めたという話も、あるいはあるのかも知れませんが、聞いたことはありません。戦争や内戦の地では、人道支援がもつべき、独立性、中立性、公平性が重要であり、場合によっては、死活にかかわる問題となります。

 日本では、政府主体の「オールジャパン」というキャッチフレーズが打ち出されがちですが、特に紛争地での人道支援・援助においては、NGOというのは、当該国の現地の軍隊(主権の一部)は無視できませんが、自国の政府、軍とは距離を取るというのが世界の常識です。UNOCHAという国連の人道支援調整機関でも、軍との距離に関しては、非常に注意深いスタンスを原則としています。

  その根拠は、完全に実現するのは難しいことでありますが、人道支援は、独立性(自国の政府などから独立)、中立性(政治的立場からの中立)、公平性(戦時に困窮している村や人々に、公平に支援を行うこと)を軸として成り立っているからです。たとえば、通常、米国NGOが、米政府米軍と組んでの人道支援はしません。米政府米軍の国益や国策に基づいて、米政府と関係のよい地域、村、人々にのみ支援すれは、それは本来の「人道支援」ではありません。現場での実現はとても難しいことですが、人道支援に関わる機関、団体、メンバーは、必ずこの人道支援の根本の意識を強くもって、悩みながらでしょうが、紛争地で活動しています。

「オールジャパン」は人道支援にそぐわない

 「オールジャパン」で異論を出し合い、よりよい政策を探る、創るということはありえます。しかし、こと人道支援の現場活動に関しては、政府、企業、大学、NGO、軍隊(日本の場合は自衛隊)まで手をつないで一緒にやりましょうということは最終的にあり得ません。、日本では、この考え方がある程度通用してしまうのですが、本来、人道支援でも広く地域開発協力でも、NGOの活動と、国益を背景にしている政府、軍隊などとは違うのだ、という議論の基礎ができている社会の方が健康的だと思います。

 日本では、「オールジャパン」から外れると、 ・・・続きを読む
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筆者

熊岡路矢

熊岡路矢(くまおか・みちや) 日本国際ボランティアセンター顧問

日本国際ボランティアセンター(JVC)顧問、前代表理事。日本映画大学教授。法務省難民審査参与員。1947年東京生まれ。東京外国語大学中退。80年のタイでのJVC創設に関わりカンボジア/インドシナ難民救援活動に参加。その後、イラク、パレスチナ、南アフリカ、エチオピアふくめ20を超す国・地域で人道支援活動に従事。外務省「国際開発協力」有識者会議委員、UNHCR駐日事務所アドバイザーなども歴任。著書に「戦争の現場で考えた空爆、占領、難民: カンボジア、ベトナムからイラクまで」(彩流社)、「カンボジア最前線」(岩波書店)、共著「NGOの選択」(めこん)など。