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住民投票で政治のタレント化を乗り越えた大阪市民

「好き嫌い」から「政策」を見極める政治へ

五野井郁夫 高千穂大学経営学部教授(政治学・国際関係論)

 5月17日に投開票が行われた「大阪住民投票」で、「大阪都構想」は反対多数となったが、その差はわずか1万741票差と、1%にも満たない僅差だった。

 これによって、大阪市の橋下徹市長が掲げ、5年にわたって継続的に議論が行われてきた「大阪都構想」は実現せず、今の大阪市がそのまま存続することとなるが、今回の住民投票の結果は、日本の民主政治のあり方を考えさせられるものであろう。

 というのも今回の住民投票では、これまでの日本政治を「決定できない民主主義」と批判し「最後は多数決」こそが「民主主義の鉄則」だと主張していた橋下市長が、皮肉にも1万票あまりの僅差の多数決によって葬られる形となったからだ。

 小学生でも知っているように、民主主義とは多数決の原理ならびに個人や少数派の権利擁護という原則の組み合わせをその基盤とするのであって、多数決のみをもって機能するものではない。

 この民主主義の原則からしてみれば、「大阪都構想」の開票結果である「反対」の70万5585票という多数が、「賛成」の69万4844票という少数に対して1万票あまり、得票率にして0.8ポイント上回ったものの、多数決の勝者は、少数派である後者の意見にも耳を傾けねばならないのは云うまでもない。

 今回の住民投票は僅差だったにせよ、本来的には得票数に関係なく少数派の権利を尊重しない政治は、民主主義の政治の要件を充分に満たすものからはほど遠いのである。

 くわえて今回の住民投票は、都構想の賛否以上に、橋下徹市長と維新の党の政治家らの任期満了を前にして、結果的に本来であれば近い将来に問われるはずであったその信任を前倒しする投票となってしまった。今回の投票結果の連鎖的な影響は、国政運営にも出てくるだろう。

 さらに日本の民主政治にとって今回の大阪住民投票が象徴的だったのは、本来は民主政治のあるべき姿である「政策の政治」が、近年の風潮である友か敵かに峻別する「好悪の政治」に辛くも勝利した点である。

 橋下徹市長は賛成投票呼びかけ時には「僕のことはキライでもいい。でも、大阪がひとつになるラストチャンスなんです」と、政策の政治的なスタンスを打ち出したものの、引退会見では「自分は嫌われる政治家」であり、これからは「嫌われない政治家がやるべき」という「好悪の政治」へと着地する発言が目立った。

橋下徹・大阪市長橋下徹氏はテレビをはじめメディア戦略に長けていた
 橋下市長が、当初は歯に衣着せぬ弁護士キャラで頭角を現し、「嫌われる政治家」というキャラによってテレビで「好かれる政治家」の1人、すなわちテレビタレント出身政治家の典型だったことを思い出すと、この着地点に違和感はない。

 ようするに、「嫌われる政治家」キャラでテレビの視聴率のように支持を獲得する手法が、大阪市民には、もはやこの数年間で飽きられ

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